ライター/編集者・稲田豊史氏に聞く
第5回 成熟社会における“成長しない”人間と企業の生き残り戦略
のび太に見る日本企業の生き残り戦略
成長しないのび太を許すってすごく大事じゃないですか。だからこそマイノリティの人たちのために使われるべきテクノロジーとしてAIはあってほしい。
稲田「人間とは成長すべき」「今年の売上は去年より大きくなっていくべき」があたかも公理のように、絶対的真理みたいに言われていますが、本当はどうなんだろうと思うことはあります。周囲に迷惑をかけず、自分が幸せを感じているなら、別に成長しなくてもよくない?という考え方が、あまり認められない社会ですよね。
成長を求めなくても社会にちゃんと参加できて、社会に貢献できる。そのためにテクノロジーをうまく活用することのほうが、きっと幸せな使い方ですよね。
稲田 明治維新も高度経済成長もそうですけど、日本が歯を食いしばって頑張んなきゃいけない時代は、過去たしかにありました。早急に近代国家をつくらなければ諸外国に食い物にされてしまう危機がありましたし、敗戦で国がボロボロになった状態から早く脱さなければ国民が困窮する。だから急速な成長と発展が求められました。
でも、今や日本は成熟国家となり、子供の数も少なくなり、ゆっくり死んでいっています。成長のフェーズにはいない。若者に人気の職業が国家公務員ではなく地方公務員だというのもよくわかります。死なない程度にお金があれば、必要以上に働きたくないし、成長なんてしなくていいという考えかたの若者が、高偏差値な学生の間にも増えています。
昔の世代がからすると、それがぐうたらに見える。
稲田 若者に言わせれば、「そりゃあ、あなたたちの時代は、働けば働いただけ給料がもらえたからよかったかもしれないけど、今はそうじゃない。この国は、この30年成長してないじゃないですか」って話で。ちなみに「ぐうたら」は『ドラえもん』の作中でのび太に対してよく使われるワードです(笑)。
かつて帝国は常に領土を増やすのが正義としてあったことが、今から考えるとなんて野蛮だと思うように、企業が成長するのが当たり前、みんなが頑張らないといけないのが当たり前というのも、なんて野蛮だっていう時代も来そうじゃないですか。
稲田 なぜ領土を広げたかったかというと、労働人口が多いほうが発展するからですよね。国力、イコール人口。今もある程度はそうでしょう。でも、もはや日本に人口が増える兆しはありませんよね。どうしようもなく動かせないこのフレームの中で、どうしたら快適に生きていけるのか? 少なくとも向上心を持ったり成長を目指したりすることが必ずしも得策ではないということを、若者は感づいています。本当に向上したい、成長したい人は、この国でがむしゃらにやってもコスパが悪すぎるので、とっくに日本から出ていっていますし、これからも出ていくでしょう。
日本のIT企業がどう生き残っていくかを考えたときに、GAFAMに対抗するようにどんどんデータを集めて、どんどん投資してスケーラビリティを発揮させて創発させてAIの性能上げましょうみたいなことはもう無理なんだと思います。日本の企業はグローバルでニッチなところで先端的なものをつくって、ニッチ同士を繋げるネットワークを広げていったほうがいいんじゃないかと思っています。強引に言うと、だからのび太でいいじゃない。のび太がいっぱい集まってうまくいったらそれがいいじゃないか。ジャイアンになる必要はないなんて思っています。(了)
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