人のパートナーとなるAIを探求する──慶應義塾大学教授・栗原 聡氏に聞く
第4回 “ブラック・ジャック”はいかに蘇生したか

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

相対化しなければみえない特異性とエゴ

人工知能学会に倫理委員会ができた経緯も、今でいう炎上――当時は“サイバー・カスケード”といわれていましたが――がきっかけでしたよね。

栗原 10年以上前にリニューアルした学会誌の表紙に、女性の姿をしたアンドロイドのイラストを掲載したときですね。掃除機ロボットであることを明示するためにホースを描いたら、女性のロボットをロープで縛り付けるとはけしからんという騒動になってしまいました。

当時、アンドロイドが家事を担うことで女性がアンペイド・ワークから解放される意図として拝見したのですが、逆に性的役割分業の押し付けであるという議論に結びつけられていて違和感をおぼえました。

栗原 当時から今でも日本には若い女の子のキャラクターやマスコットで溢れています。それがロボットとして描かれたところで炎上騒動になるのが日本の特異なところです。トランプ氏が大統領になって、男性と女性の2つの性別のみを認める大統領令を出したことが日本でも問題視されています。しかし、日本を顧みると、日本人も男性と女性しか考えておらず、セクシャルマイノリティにも決して寛容ではありません。

トランプは同性婚の擁護を明言していますし、国際結婚のほかは夫婦同姓が民法で義務づけられているのは世界でも日本だけです。

栗原 アメリカやヨーロッパは、歴史的経緯や地政学的背景から、移民を含め多様性を享受することが、国家の生存戦略だったかもしれませんが、幸か不幸か日本はそうしたことを考える必要がありませんでした。日本でもトランプの発言は往々にして批判されますが、日本はといえば東京科学大(旧東工大)が女子学生枠を設けたら逆差別だというブーイングが起きますし、女性を優遇するからレベルが下がるからと発言する人さえいるような国です。

日本の場合には、言語の境界と国の境界がほぼ同一で、人口が1億数千万人というそれなりのスケールだったために、たまたま成立していることは多くあるように思います。

桐原 永叔 (IT批評編集長) トランプ大統領の移民政策を批判しておきながら、川口市のクルド人については厳しい意見が多発します。

栗原 トランプ氏がウクライナへの軍事支援停止を外交カードとして示唆したことを非難する声が挙がっています。しかしアメリカのウクライナ支援額はアメリカが18兆円という規模で、その多くを補助金として拠出しています。他の国は数千億円程度で、しかも低金利の貸付という形態をとっています。民主主義を守るという崇高な目的という名目を置いても、日本が国庫から無償で他国を支援していたら、国民の生活を差し置いているという批判が起こるでしょう。

EU-AI法では個人情報保護が徹底されていますが、安全保障はその例外になっています。日本にいる私たちからすると、国のエゴのように思えますが、そもそも日本が移民を受け入れているわけでもありませんし、そこに起因するテロが喫緊の問題でもありません。

栗原 一国主義だったり多様性排除だったりという、人のエゴが顕在化する傾向を止めるのは、現在においてはかなり厳しいかもしれません。

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