データ社会の不可視な<私>とネットワーク ――包摂とケアの主体としての個と協働を再考する
第1回 ストリートからアルゴリズムへと欲望と統治の声を聞く社会学者

ストリートのギャングからビッグテック企業の内部まで──社会学者スディール・ヴェンカテッシュは、データによる支配やフェイクニュースが現実を塗り替える現代社会を、現場の声を聞きつつ読み解いてきた。彼のまなざしは、アンダーグラウンドとデジタル社会の深層をつなぐ批評的通路となっている。
目次
監禁された社会学徒、再びゲットーに赴く──アンダーグラウンドとメジャーを往来するエスノグラファー
2005年に刊行された、シカゴ大学教授の経済学者スティーヴン・D・レヴィットとジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナーによる共著『ヤバい経済学──悪ガキ教授が世の裏側を探検する』(望月衛訳/東洋経済新報社)は、世界40か国で刊行され、700万部以上を売り上げた大ベストセラーとなった。
続編として、2007年に『ヤバい経済学〈増補改訂版〉』、2010年に『超ヤバい経済学』、2016年には『ヤバすぎる経済学──常識の箱から抜け出す最強ロジック』が刊行されている。
シカゴ大学経済学部のゲーリー・ベッカー教授の流れを汲むデータ分析手法により、あらゆる現象を鮮やかに解き明かすそのアプローチは、経済学ブームを巻き起こした。
2010年には映画化もなされ、日本では2011年に発覚した大相撲八百長問題を予見していたとして話題にもなった。
同書には「なぜ麻薬の売人はママと同居しているのか?」という章があり、シカゴ大学の院生だったスディール・ヴェンカテッシュがギャング集団に対する参与観察の中で入手した会計記録に基づき、末端の麻薬売人の収入が極端に低く、実家暮らしを余儀なくされている実態が明かされている。
このフィールドワークは『ヤバい社会学──一日だけのギャング・リーダー』(望月衛訳/東洋経済新報社)として書籍化されている。
同書は、アメリカ有数のゲットーであるシカゴ南部の団地に対する稠密なエスノグラフィでありながら、スリリングなノンフィクションであり、駆け出しの社会学徒のビルドゥングス・ロマン(成長譚)としても読み応えのある作品である。
ヴェンカテッシュはその後、コロンビア大学で博士号を取得し、ハーバード大学のフェローを経てコロンビア大学社会学教授に就任。
ニューヨークに移住後は、都市の地下経済に関する参与観察を継続すると同時に、フェイスブック(現Meta)やTwitter(現X)に勤務し、フェイクニュースやヘイトスピーチに関する社内調査・分析・フィールドワークにも携わっている。
スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー (著)
望月衛 (翻訳)
東洋経済新報社
ISBN:978-4492313787
スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー (著)
望月衛 (翻訳)
東洋経済新報社
ISBN:978-4492314777
スディール・ヴェンカテッシュ (著)
望月衛 (翻訳)
東洋経済新報社
ISBN:978-4492222959