ライター/編集者・稲田豊史氏に聞く
第4回 情報から関係へ:ドラえもんが示すAIの未来
ドラえもんが完璧ではないがゆえに持つ可能性
ドラえもんとドラミちゃんの違いがそのあたりも示唆していますね。
稲田 兄のドラえもんより妹のドラミのほうが出来がいいという設定は、連載の比較的初期に作られたものですが、先ほどお話したドラえもんとドラミがのび太のお世話役を交代する話は、連載の比較的後期に出てきた話です。おそらくF先生も、ここらでドラえもんの存在意義を改めて描きたかったんでしょうね。お世話能力ならドラミのほうが優秀なのに、なぜドラえもんでなければならないのか?という問いのアンサーとして。
まさに今の能力主義社会のなかで、企業が求めているものってドラミちゃんなんですよね。ドラえもんはいらなくて、ドラミちゃんだけで会社つくりたいわけですよね。
稲田 業種が何かにもよるんじゃないでしょうか。何十時間もブレストした挙げ句、面白いアイデアが出てきて商品になる、みたいな会社がある一方、会議は全部30分以内に収め、そこで出た結論で次々と進めて、ダメだったらすぐやめて次の策を講じ……を繰り返したほうがいい会社もある。それで言えば前者はドラえもん的ですよね。ブレストの90%が無駄話だったり脱線だったとしても、残りの10%を紡いでいくことによって、予想もしなかった地点に到達したりする。そういうのは多分ドラミには無理です。
その話もいま新しく出てきている「エフェクチュエーション」1という経営理論に繋がるような気がします。まさに即興性を大事にしています。反対に30分の会議で決定していくのは「コーゼーション」と言われていて、ともかく合理的にいかに効率的にやるかなんですが、これが限界を迎えているということなんですね。というのは、今は3カ月でAIも進化して、世の中も変わってしまう。3カ月で自分の仕事が全部AIに取って代わられることが起きうる世の中では、効率性よりも即興性のほうが重要視される。
稲田 ドラミはたしかにすごく優秀ですけど、結局、問いかける人の問いの範囲でしか機能しない。
最適的な道具しか出せない。
稲田 ドラミは、のび太が何かで困っているとなったら、それを最短最速で解決する道具は出せる。でも、それだけです。それがドラえもんだと、ドラミほど最短最速のソリューションは提示できないけど、やや適切ではない道具を出したり、ドラえもんの不注意でアクシデントが呼び込まれることによって、別の問いが偶発的に立ちあがったりする。1個1個のソリューションの精度は低いかもしれないけども、事態が思いもかけないところに転がったりする。そういうアクシデントをトリガーに壮大な物語が展開するのが、映画版の原作である「大長編ドラえもん」です。毎年1回、世界の存亡をかけた大冒険をのび太たちが繰り広げるんですが、多くの場合、アクシデンタルに道具が作動することでストーリーが動いていく。結局、そういうことでしかワクワクするイノベーションなんて起こせないということではないでしょうか。
まさに即興性ですね。実存が本質に先立つ話にも繋がっていて、本質的な意味が与えられる前に実存があるから、そこに意味を与えることで変化を得たり、関係性を変えたりみたいなことのきっかけをつくっている。面白いなと思ったのは、のび太を顧客として見た場合、株式会社ドラえもんと株式会社ドラミちゃんのアプローチはぜんぜん違う。
稲田 たしかに違いますね。のび太をクライアントに見立てると。
結果として、お客さんが気づいてないシーズとかベネフィットを叶えているのがドラえもんだったという可能性はありますよね。ドラミちゃんは短期的なニーズにはすぐ応えてくれるけど。