オズールジャパン代表 楡木祥子氏に聞く
(2)障がい者の幸福をはこぶハイテク義肢

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

障がいを持つ方々の幸せを叶えたい

楡木社長が日本でのマイルストーンとしてるところを教えてください。

楡木 まずは海外と日本とのギャップを埋めることで会社も成長させていきたいと考えています。50年前は鉄と木だけでつくられていた義肢が、1980年代にカーボンファイバーという素材が開発され、20年前ぐらいからマイクロプロセッサが使われるようになって、最近ではAIも搭載できるようになりました。技術を駆使して製品化され、欧米ではひろく普及している義足や義手が、日本でも多くの患者さんのもとに届くべきだと思います。10年前からある製品が、認可の段階で手間取っているのことにもどかしさもおぼえます。こうした義肢の普及と当社のビジネスの拡大とは軌を一にしています。日本法人を設立してから3年経ちましたが、その方向性は間違っていないと思います。こうした最先端の技術でよい機能を持った製品を使う人を、次の5年10年で確実に広げていきたいと考えています。

やはり福祉政策がカギになりますか。

楡木 はい。労災だけではなく障害者総合支援法での適用拡大が目の前の目標です。

2024パリパラリンピックに期することはありますか。

楡木 走り幅跳びで、当社の製品を使ってパラリンピック3連覇中のマルクス・レーム選手は現在8メートル72の世界記録を持っています。健常者の世界記録が8メートル95ですから、あと23センチにまで迫っています。今年のパリパラリンピックでは、前人未到の9メートルを達成することが期待されています。パラリンピックではブレードを使用したアナログの義足しか認められていません。現在の材料とデザインを用いた原型は1996年につくられましたから、もうすぐ30年経つことになります。科学的なトレーニングによってそれを使いこなして最大限の効果を発揮できるということは、障がいを持つ方々にとって象徴的な意義があると思います。

デジタルの技術を用いたパラスポーツの取り組みはありますか。

楡木 2016年から、人と技術とを融合させて競技を行うサイバスロンという大会が開催されていて、今年もチューリッヒで開催されます。義肢をつかった競技だけでなく、電動車いすで障害物を乗り越える競技や、四肢麻痺の方が脳波でアバターを操作してゴールを目指す競技もあります。

パラリンピックを契機に人々の認識が変わることも期待できそうですね。

楡木 ロンドンパラリンピックのころからオリパラのレガシーということがいわれるようになって、大きく変わりました。そこから私たちも、講演会や体験会のような場で実物をみてもらう地道な活動の大切さを実感しました。東京パラリンピックのあと、障がい者雇用が促進されて、義足の方々はみんな仕事に就くことができました。これは本当に素晴らしいことだと思います。

ファッション方面でも、義足を装着した方が個性の1つとして発信するようになりました。

楡木 義足ユーザーのモデルKawaKこと川原渓青さんはTikTokで120万人、Instagramで20万人のフォロワーがいるインフルエンサーですし、ジュニアモデルだった海音さんは義足のファッションモデルとして再デビューしました。以前は義足を隠していたり、肌色にして目立たないようにしたりする方が多かったのですが、いまは日本でも短パンで黒い義足にする方も増えてきました。そうした意識はSNSでぐっと欧米に追いついてきた感があります。70代のリタイアされた男性で両手の義手を真っ黒にしている方がいるのですが、その方が「かっこいいでしょ」とおっしゃっているのが嬉しいですし、自分の心に正直な姿は心底かっこいいと思います。障がいについてネガティブにならず、プライドを持って生きている方々に会えると、みんな幸せになってほしいと心から思います。そこが私たちの仕事の根本にあることだと思いますし、義肢の普及を通じて1人でも多くの障がいのある方々の幸せを叶える手助けをしていきたいと思います。<了>

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