障がい者の幸福をはこぶハイテク義肢
オズールジャパン代表 楡木祥子氏に聞く(2)

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

2020東京パラリンピックを期に、日本でも義肢の認知度が高まった。後半では、オズール社の義肢の機能とともに、製品をより多くの人たちのもとに届けるために同社が目指していることについて聞いた。

楡木祥子

楡木 祥子(にれき しょうこ)

茗溪学園中学校高等学校より1986-88年UWCアトランティック・カレッジ(英国)留学。1993年筑波大学芸術専門学群インダストリアルデザイン専攻卒業。建築設計会社を経て2001年国立障害者リハビリテーション学院義肢装具学科卒業。2001年義肢装具士資格取得。2018年筑波大学大学院MBA-IB取得。オズール社に入社後、オズール・アジア日本マーケット統括マネージャーを経て、2020年に日本法人化に伴いオズールジャパン合同会社代表に。

目次

義肢がもたらすボディ・イメージ

オズール社では、筋電義手もつくられていますね。

楡木 筋肉は動くときに電気を発生します。この電気を拾って義手を動かします。とても賢くて、多くの手の動きを再現することができます。

切断箇所の電位でしょうか、それとも脳の電位なのでしょうか。

楡木 いまのところ、脳の電位を伝える義手は製品化までにはいたっていません。末端箇所の電位をセンサリングすることがメインです。近い将来には、脳から末梢神経まで伝わった情報から義手を動かすことができると思います。

2月末に、ニューラリンクが脳にチップを入れた被験者が、念じるだけでコンピュータのマウスを動かす事例を発表しました。発展すれば義肢を動かすこともできるかもしれませんね。

楡木 オズール本社ではアイスランドの認可を受けて、切断された神経に微細なセンサーをつけて、頭で考えて動かそうとすると義足が動くという臨床試験が行われています。今年あたりにはアメリカでも認可される見込みです。

装着者の身体意識に近くなるのですね。

楡木 当社の製品には、ジャイロセンサーや角度センサー、ひずみセンサーが搭載されています。そのことで、鉛直方向にたいして足がどうなっているかという位置情報がわかります。いまの義足は、歩くならそのために最適化された動きしかできませんが、神経につながれば必要なことだけでなく、無駄な動きもできるようになります。

健常者が手や足でものを探ったりするようなことも、できるようになるのでしょうか。

楡木 健常者は暗闇でなにかをすることができます。それは自分の手足の距離感がボディ・イメージとして掴めているからです。義足の場合、神経が通っていないので、ちょっとボディー・イメージが弱いのです。私たちは「義足に血が通う」といっていますが、ボディイメージを掴むには、慣れが必要です。

手足には、入力器官としての役割もありますものね。

楡木 床が硬かったり滑りやすかったりに応じて動作を変えますからね。義足の場合は安全に歩くことができればもう95点なのですが、義手の場合はフィードバックがより大切になってきます。卵を握り潰さないようにとか、コップの飲み物が冷たいとか熱いとかいうように。また手は人格の一部としてその人の雰囲気をかたちづくるものでもありますから、ゴールの設定が難しいです。「鋼の錬金術師」やターミネーターのように、なんでもできるというわけにはいきません。現状はあくまでも手の仕事の一部を補助するところに留まっています。

その方の生活場面を切り取って、トレーニングなどでそこに適合させるイメージでしょうか。

楡木 たとえばバイキングに行って、自分の食べたいものを取るトレーニングをしたりします。これができると自立への大きな一歩で、この動作を応用して名刺の受け渡しやスマートフォン、タブレットの操作を練習したりします。心の期待と義手でできることとを擦り合わせてあげて、納得していくのですね。

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