玉川大学文学部名誉教授 岡本裕一朗氏に聞く(2)
テクノロジーは人と共同体の内外に変容をせまる

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

テクノロジーを軸にみえてくる国の姿

桐原 加速主義の考え方は、かつてファシズムに支持された未来派の『未来主義宣言』とよく似ているように思えます。

岡本 ニック・ランドは20世紀末にサイバネティック文化研究ユニット(CCRU:Cybernetic Culture Research Unit)というサークルを主催していました。その後、中国に渡るのですが、2010 年代からブログで「暗黒啓蒙」として、民主主義を否定して資本主義を徹底する主張をはじめました。これが出版されたことで「加速主義」としてアメリカ右派の思想的典拠となります。暗黒啓蒙というのは、近代民主主義をもたらした啓蒙思想へのアンチですから、ファシズム的な傾向を強く持っています。

桐原 やはりそうなるのですね。

岡本 1920 年代にイタリアの未来主義運動が盛んだったころ、同じ時期にドイツでは技術主義という思想がありました。ファシズムというのは、とてもテクノロジーを重視してきたのですが、日本ではその点をあまり紹介されませんでした。ヒトラーも熱狂的な技術礼賛主義者です。アウトバーンやラジオ放送を国策として推進したり、フォードやフィアットと技術連携して国営の自動車メーカーであるフォルクスワーゲンを設立したりもしています。1870 年代ごろからドイツは技術系の大学をたくさん設立します。そこで学んだ技術者たちが 20 世紀にドイツの国家としての礎をつくり、その国家に基づいてヒトラーがファシズムを展開しました。ドイツが工業立国になったのは、こうした背景があります。思想的にはハイデガーも技術論を著していますし、ファシストと間違えられた経緯を持つエルンスト・ユンガーも、技術への強い愛好を抱いた時期がありました。

桐原 ナチスと距離をとっていたというユンガーでもそうなのですね。そういえば、『未来主義宣言』をいま読んで驚くのはかなり明確な男尊女卑な発想に貫かれていることです。

岡本 加速主義はそれをモデルにしているので、現在の右派加速主義派は反LGBTの立場をとっています。現在、アメリカの反動主義もヨーロッパの反動主義も、そして「プーチンの頭脳」といわれているロシアのドゥーギンも連携して緊密なネットワークのもとで世界的な反LGBT運動を行っています。

桐原 テクノロジーとファシズムとが結びつきやすいのは、やはり社会改造や管理の手段として発展するからでしょうか。

岡本 それもあります。さらにテクノロジーには、かつてのドイツやイタリアのように、単なる手段ではなく国家統一のロマンとして位置づけられる側面があります。1930 年代のイタリアやドイツは、まだ国家的な対立が強く残っていました。自国の技術の発展や経済発展によって、ナショナル・アイデンティティとして国民統合の意識づけがなされた。車やラジオなど、大衆に具体的な成果を示すことができるわけですから。そうでなければ、ファシズムは国民的支持を得られなかったはずです。

桐原 たしかに、現在でもITやAI技術、DX施策が経済発展に連携すると政治的な求心力を高めることにつながりますね。

岡本 だから、中国もテクノロジーの発展を非常に強調するわけです。テクノロジーの発展がなかったら、中国はあれだけの人口を支えることができないと思います。さらに大きくいうと、20 世紀初頭から技術が非常に大きな役割を果たしてきている。特に大衆を統合するメディア技術は非常に有効で、それを最も効果的に使ったのがファシストです。ですから、ファシストのスタイルというのは、なかなかカッコいいのですよ。

桐原 テクノロジーとロマンと大衆を統合の例で考えると、それこそ印刷機が発明されて聖書をラテン語からドイツ語に翻訳して出版したことでキリスト教が普及したようなことですよね。

岡本 はい。その意味では、19 世紀から 20 世紀までのアナログの技術が、20 世紀後半から 21 世紀にかけて、デジタル技術に転換したことで、テクノロジーが社会そのものを形づくるというイメージが広く共有されたと思います。それまで小手先のこととしてイメージされていたテクノロジーが、社会を変える大きな要因だということについて認識されました。

桐原 テクノロジーというのは通貨や言語のように国家に限定されずに流通しやすいものなのですね。

岡本 おっしゃるとおりです。

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