AIの民主化と、AIによる民主化 イノベーションの望ましい帰結
第4回 競争社会の先へ―楽しみが価値を生む新しい働き方
生成AIなどのテクノロジーは、これまで埋もれていた潜在的な人材やスキルを発掘し、弱者や貧者をエンパワメントする可能性を秘めている。効率化や競争原理に基づく「メリトクラシー」の枠組みを超え、働くことの楽しさや高付加価値の創造を結びつける未来が現実味を帯びている。
目次
メリトクラシーを逸脱するビジョン
どんな弱者や貧者にも、可能性が開かれようとしているーー夢みたいな話だろうか。
わたしも短期間でここまでのユートピアが出現すると夢想してはいない。しかし、すでに劇的な変化は起きはじめている。
現在の社会を支えているメリトクラシー、テクノクラシーの構造がAIの進化によって破壊されるからだ。
経営共創基盤代表取締役CEOでベストセラーも多い冨山和彦氏は、近著である、その名も『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)で、三菱総合研究所のデータを引いて、2035年にはホワイトカラー(事務職)180万人が余剰となると述べている。
これはもちろん、テクノロジーの進展によってDXが進み省力化・効率化のなかで生成AIによって仕事が代替されていくからだ。ことにグローバル化が進む業界においては、競争原理から省力化・効率化から逃れられるわけもなく、DXは加速している。
冨山氏は、むしろ観光業のようなローカル経済での経営力、リーダーシップこそが優秀人材のキャリアにとって優位となることや、エッセンシャルワーカーといわれる医療や介護、交通、運輸、インフラ、小売、農水産業に従事する人たちがより重要になると論じている。
エッセンシャルワークとは、マズローの5段階説の「生理的欲求」「安全欲求」という人々の根本のニーズを満たす仕事である。これに従事する人材はホワイトカラーとは対照的に、今後ますます人手不足になることが予測されている。
冨山 和彦 (著)
NHK出版
ISBN:978-4140887288
テクノロジーによる潜在的な人材やスキルの発掘
ローカル経済におけるエッセンシャルワークでDXを推進して、付加価値の高い働き方を実現していかなければならないと氏はいう。こうした分野にグローバルでも活躍しうる優秀な人材が流入しなければ日本経済の浮揚はないというわけだ。
こうした人材を輩出するためには、現在の大学教育に留まらず、プロフェッショナル人材の育成に励まなければならないと氏は論じる。大学をG型(グローバル型)とL型(ローカル型)に分けて地域特化型の職業訓練校としてL型大学を充実させる必要をずっと訴えてきた氏の一貫した主張である。
わたしはただ冨山氏の主張とはやや違うものを見ている。これだけのエリートに物申すようで気が引けるのだが、氏のロジックはやはりメリトクラシー、テクノクラシーのなかでの勝ち残り戦略だからだ。職業訓練校の充実はつまりテクノクラート育成の重点化ということだ。
グローバル経済のなかで市場をいかに奪い、守っていくかは国力の点、国富の点では決して軽んじられるものではないことはよくわかる。あるいはリベラルな夢想家のように、幸福はそんなところにはないと嘯くのも白々しい。
わたしが考えているのは、生成AIを代表とするテクノロジーがこれまで活用しきれなかった潜在的な人材や、そのスキルを発掘して、高い付加価値を実現できるということだ。先のことばでいえば、現在の弱者や貧者をエンパワメントして、中間層へと膨らませることが生成AIならできるのではないかと考えているのだ。
AIよる民主化で弱者や貧者を解放し、彼らがただ楽しみのために働き、それが高付加価値の生産につながっていく。それはテクノロジーがあれば現実的なビジョンになりうるはずだ。
