AIの民主化と、AIによる民主化 イノベーションの望ましい帰結
第3回 生成AIが切り拓く誰もが自己実現できる社会

テクノロジーの進化は、人間の欲求と共に発展してきた。狩猟や農耕から始まり、社会組織や芸術へと発展する過程は、マズローの欲求5段階説と重なる。今、生成AIは誰にでも創造の力を与え、自己実現の可能性を広げようとしている。貧困や孤立を超え、すべての人が社会で役割を持ち、喜びを得る未来は来るのか。
目次
テクノロジーはマズローの5つの欲求を満たす?
『それがぼくには楽しかったから』にあるように、リーナス・トーバルズがLinuxを公開して誰でもが改変して使えるように世界中のエンジニアと共有した動機は、FUN(楽しみ)しかない。それは、その時期に独占禁止法違反となったMicrosoftのWindowsを開発したビル・ゲイツが目指した市場競争に勝って支配者となるという考えとは対照的である。そして、ここにこそテクノロジーが目指すべき帰結の理想像のひとつがある。
リーナスは同書で、行動の原動力となるものを「生存」「社会的関係・承認」「娯楽(楽しさ)」の3つに分ける。食うや食わずで、生存が脅かされるような状況ではテクノロジー開発など進むわけもない。安全が確保されると、自らの行動(技術)をみなに認めてもらいたい、承認されたいというモチベーションで行動するようになる。さらにそれが満たされると、ただ娯楽のために、みずからを喜ばすために行動するようになる、と。
ここですぐに思い出されるのが、心理学者アブラハム・マズローの欲望5段階説だろう。「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」というあのピラミッドで描かれた図を思い浮かべるはずだ。低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求を抱くようになっていく。
作画: からだ・けんこうサポーター
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