マスメディアは何に負けたのか?インテリジェンス・トラップとメリトクラシーの地獄
第2回 能力主義の罠 サンデルが問う社会の歪み

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著者 桐原 永叔
IT批評編集長

「古い“反権力的正義” と新しい“反権力的正義”」の対立

サンデルの『実力も運のうち』の原書がアメリカで刊行されたのは、トランプが大統領に初当選したタイミングである。同書でサンデルは、かつて都市圏のエリート層は共和党を支持してきたが、やがて同じ層が民主党を支持するようになっていった変遷を述べている。

二◯世紀の大半を通じて、左派政党は学歴の低い人々を、右派政党は学歴の高い人びとを惹きつけたものだった。能力主義の時代には、このパターンが逆転してしまった。

『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

2016年の大統領選では、大学の学位を持たない白人の3分の2が右派共和党のトランプに投票し、学士号より上の学位をもつ有権者の実に70%の得票を得たのは左派民主党のヒラリー・クリントンのほうだった。

しかし、この傾向も今回の大統領選ではさらに様変わりしているようにみえる。都市圏のエリート層がトランプ支持にまわったようなのだ。バイデンの政策を能力主義の勝者たる都市圏のエリートが嫌ったのだ。端的には、移民や貧困層への分厚い保護が先に述べたような彼らの“正義”に適わないのだ。彼らは自由競争の勝者でもある。みずからの努力なく移民というだけで国の支援を受けるのは間違っていることになる。

トランプの支持層をエリート、非エリートで分けるのももはやナンセンスかもしれない。移民や貧困層への国の支援によって職場を奪われ、住居さえ奪われた非エリート層も、その多くがトランプを支持した。これが都市部のエリート層の票と相まって圧勝劇をもたらした。

先に述べておいたように、アメリカでもかつての対立構造が壊れている。

トランプの当選が決まった際、ハリス支持を表明していたハリウッドのセレブたちはこぞってトランプの当選を間違ったことといい、学歴のない人たちがデマゴークにまんまと騙されたのと罵った。ほとんど、それは上から目線で、権威的であった。

同じように日本でも、兵庫県知事選の結果をうけて、大マスコミ(オールドメディア!?)のコメンテーターの何人かが、メディアリテラシーの低い人たちがネットのデマに踊らされたのだと論じた。これもまた得てして権威的に響くものだった。

ここまででわたしが論じられるのは、わたしたちは能力主義の社会でのし上がり社会の権力側についた人たち(県議会、マスメディア)のいう“正しさ”がお為ごかしでしかないことに気づいたということだ。

対立軸にあるのは「古い権力と新しい勢力」というより、「古い“反権力”と新しい“反権力”」なのではないか。もっといえば、「古い“反権力的正義” と新しい“反権力的正義”」の対立。あるいは「古い“被害者”と新しい“被害者”」の対立。

被害者だったみずからがいつしか加害者であったというような意外に、アメリカの民主党支持者も日本のマスコミもみなが驚き、理解不能になっているようなのだ。

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