東京女子大学現代教養学部准教授・大谷弘氏に聞く
(3)未知のものを理解しようとする想像力が倫理になる
教育者としてのウィトゲンシュタインに学んだこと
都築 教育者としてのウィトゲンシュタインに影響を受けていることはありますか。
大谷 教育者としてのウィトゲンシュタインには、いまでいうハラスメントにあたる言動も多くあります。小学校の教員をしていたときも体罰をしていたといいますし、ケンブリッジの授業で「こんなことならストーブと話してるほうがましだ」と学生に言ったりですとか。その意味では教育的配慮がないようにみえますが、ノートを読み上げるだけの授業が多かった時代に、いま自分が考えていることを学生にぶつける対話的な授業をして哲学生成の現場に立ち会わせています。いっしょに哲学するという姿勢については、私もウィトゲンシュタインに学びたいし、実践したいとも考えています。
都築 時代的な違いもありますし、学生さんたちのバックグラウンドも当時のケンブリッジ大学とはちがいますものね。
大谷 ウィトゲンシュタインは、対話的といいつつも自分が圧倒的優位に立って話すことを好んでいたようです。ウィトゲンシュタインの講義を受けた人の回想には、どんな論点についてもウィトゲンシュタインは先に深く考えていて、学生はだれも敵わなかったということが書かれています。私もいま学生との対話のなかで同じことを感じることもあります。専門分野のなかで、自分が論点を提示しているから当然なところもありますけれど。たしかに高い知的能力や好奇心を持った学生たちとハイレベルな対話をして当人にとっても刺激になることは意義があると思います。一方で、哲学の面白さをわかってもらうことにも意味があると思っていますから、身近な話題から哲学的な課題を考えることも大切にしています。
都築 先生ご自身は、どんな学生だったのですか。
大谷 真面目でしたよ。教室の前の方に座って熱心にノートをとっていたタイプです。
都築 現在は東京女子大で教えられているので、かつての先生とは異なる生活世界をもつ学生さんたちとの対話になりますね。
大谷 東京女子大学の学生たちは非常に熱心で、専門的な話にも興味を持ってくれます。教えていて楽しいですね。他方、私は、学生が社会に出たときに拠り所となるような視点を身につけてほしいと考えていて、専門的なところよりもより広いところから論点を見つけていくことになりますね。女子大ということもあり、ジェンダーの視点も意識して論じるようにしています。
都築 いまは前期のテスト期間が終わったころかと思いますが、ChatGPT対策のようなことはされましたか。
大谷 従来どおりレポート提出の形式でした。課題を出すときにChatGPTのことは少し考えましたが、まずは学生を信頼したいということと、こちらから制限を設けるのもよくないと思ったことから、とくに対策することはありませんでした。よい使い方を教えてもらえることも期待して、使い方をレポートに明記すればChatGPTを使ってもよいとは書き添えました。現在、採点中ですが、いまのところ目立ったものはありません。

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