上尾中央総合病院心臓血管センター長・一色高明氏に聞く
(1)1秒が生死を分ける──救命医療を支える最先端テクノロジー

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

プレホスピタル心電図の利用と救命率の関連を調べた国内初の研

一色 実はこの7月に論文を出しました。心筋梗塞の患者さんでプレホスピタル心電図をとった方ととっていない方を比較して、Door To Balloon Timeなども調べて、その方がどういう転帰をたどったかをまとめたものです。実はこのような研究は都市部では差が出にくいと思っていたので結果が出るまで不安でした。

桐原 どうしてなのでしょうか。

一色 大きな病院が複数ある都市部では救急現場から病院までの距離が近いと、プレホスピタル心電図で診断してもすぐに病院まで到着してしまいます。例えば東京都内はCCUネットワークがあって、カテーテル治療ができる病院がたくさんあり、すっと運べて収容されて治療される。それで、すごくいい成績なんですね。逆に埼玉は、地域によりますが結構医療過疎なんですよ。そこに期待していました。

桐原 意外ですね。

一色 埼玉でも南にあるさいたま市までは病院も多く東京に近い感じですが、そこを離れると途端に病院の数が少なくなり、24時間体制で心筋梗塞の治療ができる病院は、ぽつんぽつんとしかありません。当院は上尾市を中心に県央地域(上尾、桶川、北本、鴻巣)を医療圏としていて、50万人が住んでいますが、そのなかで24時間365日やっているのはうちだけなんですよ。

桐原 エリアによって医療格差が激しいのですね。

一色 上尾市内であれば近いですからそれほど問題になりませんが、北本市や鴻巣市あたりだと30分ほどかかりますから、そうなると事前に心筋梗塞を知る、知らないの差が大きくなります。血管造影室がまだ準備できていないうちに患者さんが運ばれてくるのと、準備完了しているのでは、Door To Balloon Timeに差が出てきます。

桐原 どのぐらい差が出るものですか。

一色 私たちの検討では平均で6分の差があることがわかりました。この6分の差がどのような意味があるかというと、なんと30日後の死亡率にも差があることが示されたのです。プレホスピタル心電図の有無で死亡率の差が出たというのは、国内では初めてではないかと思います。

桐原 すごいデータですね。

一色 細かく解析したところ、軽症の人は、病院収容までに時間がかかったとしてもほとんど亡くなっていませんでした。だから、軽症の人も合わせてデータをとると差が出にくいんです。

桐原 平均化されてしまうのですね。

一色 ある程度以上の重症の方だけでカウントしたら、プレホスピタル心電図の有無が死亡率に影響することがわかりました。そのことを明らかにできただけでも非常に大きいことかなと思っています。

桐原 それはプレホスピタル心電図の普及にとって意義のあるデータになりますね。日本全国で考えると埼玉よりも医療状況が悪い地方はたくさんあるはずですから。

一色 普及の後押しになるといいなと思っています。

桐原 日本で初めてのデータ研究成果ということですが、それが実現したポイントはどこにあるのでしょうか。

一色 一つの病院でこれだけ大量のデータを救急隊へのフィードバックコメントともに収集して、分析し管理できているところはないと思います。SCUNAはすでに多くの医療施設でも運用されていますが、割と広域的に複数の病院で活用されるケースが多く、そうなるとデータを収集することも大変ですし、Door To Balloon Timeの定義もきちんとなされていないとデータとして活用しにくいというということがあります。

桐原 学術的に有意なデータを揃えるのが大変だということですね。

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