AIが加速する宇宙データの活用
第2回 気象から農業、防衛まで──暮らしを支える宇宙データ

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テキスト 戸津 弘貴
デジタルガジェット情報サイト「iPod Style」および、防災系情報サイト「防災スタイル」の運営を手がける傍ら、ガジェットや最新テクノロジー、スタートアップなど幅広いジャンルをカバーするフリーランスのライター、ジャーナリストとして活動。

気象予測や農業、環境保護から都市計画、防衛まで、衛星データの活用が急速に拡大している。AIとの組み合わせにより、宇宙データはより高度なソリューションとして社会課題の解決に貢献し始めている。

目次

広がる宇宙データの活用

衛星データの利活用は、近年さまざまな分野で急速に進展している。

具体的な事例としては以下のような利活用事例がある。

気象予測と災害管理

気象衛星「ひまわり」から取得されるデータは、日々の天気予報のほか、台風の進路予測や豪雨の発生予測に不可欠なものとなっている。台風や豪雨災害に際して、ひまわりのデータを基にした正確な進路予測が早期の避難指示に役立った例もある。また、地震災害時にはSAR衛星データを用いて地表の変動を迅速に把握し、被害評価や救助活動の支援が行われる事例もある。

農業分野での活用

ヨーロッパの「コペルニクス計画」1では、2030年までに7種10機の衛星による地球観測が行われる計画で、災害対策と大気監視、次いでエネルギーと農業分野での活用が進んでいる。日本においても衛星データによる土壌分析が効率的な農林水産業の課題解決に貢献している。

その他の農業分野での活用例としては、衛星データを活用してNDVI(正規化植生指数)を用いて作物の生育状況を評価し、適切な灌漑や施肥のタイミングを決定するなど、作物の健康状態を監視する目的。リモートセンシングによるデータから、畑地の排水不良域の推定、表層土壌の窒素肥沃度の指標としての活用など、土壌の改良、均質化などでの活用も進められている。

環境モニタリング

ブラジルのアマゾン熱帯雨林では、森林伐採の監視に衛星データが活用されている。アメリカ航空宇宙局(NASA)によって開発された可視・赤外域の放射計(MODIS)データや、JAXAの衛星「だいち2号」が取得したSAR画像を使用して違法な伐採活動を特定、環境保護対策が実施されている。JICAは、2016年宇宙航空研究開発機構(JAXA=ジャクサ)と提携を結び、現在では77カ国の森林を全球的に監視し、一般公開することで違法な伐採活動を牽制している。

また、海洋環境の監視では、JAXAの衛星「しきさい」が取得したデータを用いて赤潮の発生を早期に発見し、漁業被害の軽減に役立てられている事例もある。

都市計画とインフラ管理

インドでは、衛星画像を活用して都市の成長分析と交通渋滞の予測が行われている。欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-1 SARデータを用いた、インフラの老朽化や地盤沈下の監視なども実施され、都市の持続可能な発展に活用されている。日本においても、地盤沈下などの地殻変動を検知、防災や都市整備などに役立てられている。

防衛および安全保障

衛星データは国防分野でも重要な役割を果たしている。たとえば、アメリカの偵察衛星は国境監視や軍事活動の追跡に使用され、リアルタイムでの情報収集が可能。また、災害時の治安維持や人道支援活動にも衛星データが活用されている。

民間でも、越境してくる不審船、違法操業の密輸船、一般の船舶を襲う海賊船などを監視する取り組みが進められている。

これらのほかにも、宇宙データはビッグデータ解析やAI技術と組み合わせることで、新たな利活用の可能性が広がっている。次章ではその具体的な一例を紹介する。

宇宙データをAIで解析して米づくりに活かす

株式会社天地人は、日本の得意とする地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)を活用して革新的な土地評価サービスを提供するJAXAから出資を受けて設立されたベンチャー企業だ。

2022年より、同社のサービス「天地人コンパス」を活用し、宇宙から米作りに最適な土地を探し栽培した米「宇宙ビッグデータ米」の栽培と収穫を手掛け、2023年には猛暑による全国的な一等米の比率減のなか、例年同様の品質を維持することに成功。衛星データによる適切な圃場選定と、IoT機器などによる水管理によって、栽培品種に適した農地で、猛暑でも水温を例年通りに保つことで、品質が維持されることを実証した。

天地人によると、従来の衛星データの活用の多くは、無加工もしくは原型に近い状態での活用、販売が主流だったという。衛星データのサプライチェーンを、水産業に例えると、ロケットが漁船、人工衛星が漁師、魚が衛星データに相当するという。従来は、スーパーで魚を売っているように、加工されていたとしても切り身や刺身になった状態で売っているようなイメージだったという。

近年増えてきた宇宙データの領域は、地上データなど他のデータを掛け合わせて処理(調理)された高度な活用だ。例えるなら、魚という食材に、他の食材や調味料を組み合わせて料理し、食事として提供するレストランのようなもの。処理の仕方や提供方法によっては、缶詰のようなものである可能性もありうるだろう。

その加工(調理)に活用される包丁や鍋に相当するのがAIとなる。