国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター長 辻井潤一氏に聞く
(1)人間の認知の仕組みへの興味からAI研究の道に

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

機械翻訳に技術オリエンテッドに取り組む

桐原 その時代の学際的な研究が辻井先生に与えた影響はどのくらいあるのでしょうか?

辻井 その頃の10年間に、心理学や言語学や哲学の人たちと交流したというのは、その後、自分がものを考えていくうえで結構大きかったと思います。ただ科学的な運動としては、認知科学は面白かったんだけど、方法論的にはあまりうまくいかなかったんですね。やっぱり違う分野の人間が寄ると、何を明らかにしたいのかとか何を価値と思って研究しているのかというのが、かなり違う。話しているときは面白いんですが、実質的な研究をやるということになると、なかなか具体的な成果は出にくかったですね。そういうわけで、15年ぐらいやった後はまたばらばらになりました。技術の連中は技術に戻るし、心理学や哲学の連中はまたそれぞれのグループに戻っていったんじゃないでしょうか。

桐原 なるほど。少し強引かもしれませんけど、第1次、第2次と進んでいくAIブームの流れとも少しシンクロするような感じがしますね。

辻井 そうですね。方法論的にも技術的な土台からしても成熟していなかったんだと思います。だから少し前のめりになってしまっていて、議論していることと技術的な基盤とがうまくシンクロしていなくて目的意識だけが先行していた。そこに対する反省はあったと思います。

桐原 辻井先生はそのときは、機械翻訳をやられていたのですか?

辻井 人間の知能とか常識とか身体性も含めて、まだまだ技術には載らないなという感じが非常に強くありました。かたや機械翻訳は言語という実体があるものが対象になっていて、違った言語の間を結ぶというのは、理解とか知識という抽象的なことを考えなくても技術の問題として取り組むことができるわけです。そういうところに僕自身は戻りたくなって、議論としては認知科学的な議論や哲学的な議論もするわけだけど、みずからの研究としては言語そのものの処理にかかわっていました。しかも、言語の意味とか理解とは切り離して、表面に現れた言語のかたちだけを処理することである程度できそうな分野、それが機械翻訳だったわけですけど、そこに意識的に戻っていったという感じはあります。

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