神話の構造がエンパワーする“人間”への帰依
英雄の旅
アメリカの神話学者、ジョセフ・キャンベルの『千の顔をもつ英雄』上下(倉田真木、斎藤静代、関根光宏訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)は、映画監督ジョージ・ルーカスに大きな影響を与え、映画「スター・ウォーズ」シリーズのストーリーテリングに取り入れられていることは映画ファンでなくとも有名だ。余談だが、映画「スター・ウォーズ」は黒澤明の「隠し砦の三悪人」からの影響も決して小さくなく、ルーカスはチャンバラを演出したくてSFをつくったのではないかとさえ思う。
「スター・ウォーズ」に取り入れた神話構造でもっとも普遍的で人々を魅了するのは“英雄の冒険(Hero’s journey)”である。あらゆる神話の単一的な構造を「モノミス」という。このモノミスたる英雄による冒険譚は、ギリシャ神話のオデュッセウスから日本神話のヤマトタケルに至るまで世界各地の神話に同じ型が見られる。
「スター・ウォーズ」も主人公であるルーク・スカイウォーカーという英雄の冒険が基本の構造となっており、キャンベルの理論をなぞっている。英雄は姫と出会い、父と対決の末に邂逅するという細かなモチーフも、「スター・ウォーズ」には取り込まれているは、「スター・ウォーズ」ファンならずとも知っていることかもしれない。民俗学者、折口信雄が唱えた貴種流離譚も英雄の冒険の変曲であるのと同時に、ルークが実はベイダー卿の子であるという「スター・ウォーズ」の展開も正しく貴種流離の類型である。
さて、私がなぜ『千の顔をもつ英雄』、あるいは英雄の冒険をもちだしたのかといえば、それこそが『マイホーム山谷』の構造に同一のものを見出したからである。『マイホーム山谷』は現代的な問題をめぐる神話なのだ。
著者の末並さんは“魔境”である山谷に“冒険”に出る。彼が求めたのは自身の両親の介護に対する悩みの解決である。その解決策を持っていると思われるのが、ホスピスを成功させた「山本さん」なのだ。あえて神話構造で分析すれば「山本さん」は父性的な存在である。
しかし、発見した“父”にはすでに解決の力はなく、著者(英雄)は父の存在を乗り越えていく。これもまたイニシエーションめいたエピソードである。これ以上はネタバレなので伏せるが、その後には、“姫”となる女性の存在があり、それが著者を救済へと導く最後のピースになる。
この構造はそのままキャンベルが図示した円環(出立→イニシエーション→帰還)をなす英雄の冒険パターンに一致している。著者は成長を遂げて日常へと帰還していく。作品はほとんど美しいばかりの構造によって読者を惹きつけてやまない。
友人の特権で、著者に質問したところ、こうした構造は巧まずして表されたものだと知った。作中に話者として登場する著者は決して英雄然とはしていない。いや、むしろその飾らない様子が、作劇法として「魅力的な話者」の機能を果たしている。
千の顔をもつ英雄〔新訳版〕 上
早川書房
ISBN:9784150504526
千の顔をもつ英雄 新訳版 下
早川書房
ISBN:978-4-15-050453-3
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