医療IT企業メハーゲングループ代表・浦﨑忠雄氏に聞く(1)
日本の医療技術はトップレベルなのになぜDXは進まないのか?

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取材・構成  土田 修
IT批評編集部

人手不足に悩む地域医療の手助けを

オンライン診療は、以前は医療機関がない離島やへき地など通常の診療を行うことが難しい場合にのみ認められていました。それが2018年の診療報酬改定で「オンライン診療」として明確に保険適用となりました。さらに新型コロナウイルス感染症防止の観点からニーズが高まり、厚生労働省は2020年4月10日付で過去に受診歴がない人を含め、初診時からのオンライン診療を認める通達を出しました。

医療従事者の不足が言われています。また、地方では安心して医療を受けられないといった地域格差の問題もあります。そういった意味では、ITを活用することで、どこにいても同じ水準の医療を受けることができるようにならなければなりません。

オンライン診療は誰が見ても便利に違いありません。ただ保険点数が一般診療より低いので、なかなか取り組みにくいかたちとなりました。大きな病院に患者さんが集中して街のクリニックが成り立たなくなる不安があるということで、医師会の意見が通ったわけです。医療においては健全な競争原理が働かないのでこういうことが起こるのです。オンライン診療を促進することがいいことなのかどうかについては、国も迷っていて、中途半端な施策にならざるを得ませんでした。

医療者不足に悩む地域にとっては、これからは遠隔操作による医療が解決策になるとみています。私たちは医療用ロボットを開発することはできませんが、遠隔での手術の際に参照する画像を映し出すなどの付随する仕組みづくりには貢献できます。必要だけれど取り組まれていないニッチな分野でのデジタル化、IT化に挑戦していきたいと思っています。それによって人手不足に悩む地域医療の手助けになると考えています。

収益や安定経営を重視する病院がDXの担い手になる

コロナ禍を契機として、日本のDXは進むと言われていますが、私は医療においてはそれほど楽観的には捉えていません。補助金が下りるからやるという以上のインセンティブを病院経営に携わる方は感じていないのが本当のところだと思います。

医師もDXしなければならないという危機感を抱いている方は少ないように思います。医師は腕を磨いて良い医療を行いたいというのが本筋ですから、政治的な動きに関しては得意ではない方が多いようです。海外に留学される先生も、先端の治療法であるとか医療機器であるとか薬については知見を持って帰国されるのに、IT化されていない日本の現状に対しては、不便には思われても慣れてしまうのですね。

ただし、国公立ではない中核病院で収益を上げようという病院さんもあります。病院経営に携わる方は、医療費が増大して診療報酬が下がるなかで、それに対する危機意識は非常に高い。効率化を重視しますから、IT化やDXに対して関心も高いし、積極的だと思います。そういった病院に提案しながら、地道にIT化を進めるしかないと感じています。

医療のDXがなかなか進まない理由

医療のDXを見ると、各企業の権益を妨害しない分野ではAI導入なりIT化が大きく進んでいる気がします。つまり、ガンの診断や心電図の解析、薬の開発といった1社で完結する研究ではIT化はどんどん進んでいます。ところがデータの共有といった企業間が連携する分野になると、利害が相反するのでIT化がなかなか進まないというのが私の見るところです。

問診票や薬の処方箋ですらオンライン化は進んでいません。予約システムも電話が主でHPからの予約も少ないそうです。

ネットワークでつなぐことは、個人情報保護に関してリスクがあるので慎重にならなければならないという意見がありますし、私もそう思います。しかし、だからといって、つながないという選択肢はないわけです。ペンタゴンにだってハッカーは入ろうと思えば入れるわけですから、100%の安全を求めるのではなく、どこかで折り合って新しいテクノロジーを導入していく方向に変わらなければならないと思います。諸外国はそうやって医療のDXを進めています。日本社会のDXが進まなかった大きな理由も過度な安全志向に見出すことができます。

テクノロジーの進化に対して医療分野が置き去りにされていくのを看過するわけにはいきません。医療周辺にはアナログな分野がまだまだたくさんあるので、そこをデジタル化して、病院にとっても患者さんにとっても効率的で使いやすいシステムを提供していくことが使命だと考えています。データを一元化することによる患者さんのメリットは計り知れないので、ぜひ進めていきたいと思っています。

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