東京大学教授・松原仁氏インタビュー(1)
AI研究の軌跡と未来──東京大学 松原仁教授が語る「心」と人工知能の関係

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

AI研究は役に立たない学問の代表格

桐原 AIと出会ったのは大学時代ですか?

松原 ある本を読んで「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」という言葉を知り興味を持ったのですが、入学した東京大学にはAIを研究する先生がいませんでした。それで専門が決まる3年時に、設立されたばかりの理学部情報科学科に進みました。でも、「人工知能を研究したい」と抱負を述べたら、ある先生から「そんなあやしげな分野を研究するようなやつは人間のくずだ」と罵倒されてしまいました。AIというのは役に立たない学問の代表格として見られていたので、手を出してはいけないと言われていたのです。ロボット学会ができたのが1983年、AI学会ができたのが1986年です。学会ができるまで正式な学問とは見られていなかったんです。

桐原 今ではそんな時代があったとは、とても想像ができません。そんな状況でも先生は諦めなかったのですね。

松原 当時の理学部にはAIの研究者はいませんでした。大学院でAIを研究しようと工学部にも範囲を広げて調べたたら、唯一、研究案内の最後に「人工知能」と記載していたのが井上博允(ひろちか)先生の研究室でした。井上先生は気鋭のロボット工学者で、マサチューセッツ工科大学(MIT)の留学も経験されていました。私はMITで人工知能を研究していることも知っていました。もっとも、後にうかがったら井上先生ご自身はシラバスに人工知能と書いたのは「気の迷いだ」と言っていましたが。ロボットで有名な先生でしたので、まわりはみんなロボットがやりたくて入ってきていました。私がAI研究志望第1号だったようです。

桐原 大学院時代、AI研究はどのようにされていたんですか? 独学ということでしょうか?

松原 井上先生は研究室に入った途端に、「私は、ロボットは教えられるけど、AIについては何も教えられない。その代わり、君の研究には口を挟まない」とおっしゃったんですね。それが非常に良かったです。先生になってみるとわかるんですが、理解できないことでも口を挟みたくなって、間違った方向に導いたりして、学生にとっては迷惑このうえないことなんです。

桐原 学生ではAIを研究されている方って他にはいらしたんですか? 

松原 AI研究は正式な学問分野として日本に入ってきておらず、ましてや「冬の時代」です。私が大学院に入る4年ほど前に始まっていた人工知能の勉強会「AIUEO(アイウエオ)」という東大の先輩がつくったAI研究の“秘密結社”みたいなものがありました。

いろんな研究室にAIに興味を持つ学生がいたので、横断的に集まって2週間に一度の割合で勉強会を開いていたんです。自主ゼミですね。もちろん私も所属していました。ちなみにAIUEOは「Artificial Intelligence Ultra Eccentric Organization」の略です。“人工知能を研究する超変態集団”ということです(笑)

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