日本大学文理学部 情報科学科准教授・大澤 正彦氏に聞く
第2回 意図を読むAIが拓く人と機械の新関係
日本が一歩先をいく心を読むAIの研究
先生は、人間の意図を読むAIの研究をなさっていますね。
大澤 心の裏を読むみたいなところはけっこう力を入れて研究しています。ChatGPTとか大規模言語モデルに心の裏を読むというタスクをやらせようとするとうまくいかないことがあるというのは知られていたので、そこに対するアプローチをいろいろやっているところです。
擬人化の話で言うと、最近ChatGPTにニックネームをつけている人がたくさんいると聞きました。
大澤 そういえば、僕は工業高校に通っていましたけど、同級生たちは自分のパソコンに名前つけていましたね。
ヨーロッパのAI Act(AI規制法)1だとAIが人の心に訴えかけるようなことは、グレーからブラックの評価をされています。AIを友達と見做すようなドラえもん的な発想は、ヨーロッパは危険視するかもしれません。
大澤 そうでしょうね。去年の人工知能学会でも議論になっていたんですけど、最近だとヨーロッパでは、AIに人格や人権があるかという議論すること自体がタブーであるという発表をされている方がいて、ドラえもんは日本でつくるしかないなと思いました。これだけAIは怖い怖いって言っているのに、ドラえもんをつくりたいと言うと怖いと言う人はあまりいません。人間がダメになりそうだよねという議論はしますが。
ドラえもんにネガティブなイメージはありませんからね。
ヒューマンエージェント・インタラクション(HAI)の最前線
大澤 ポジティブなイメージがどれだけ研究開発を加速させるかというのは計り知れないものがあります。日本という国で、ドラえもんに対してポジティブなイメージがあるのは加速要因だし、AIを擬人化したり擬人化されたAIとのインタラクションの研究領域がヒューマンエージェント・インタラクション(HAI)2なんですけど、世界の中でも日本の存在感が圧倒的に強い。AI研究でここまで日本が強い分野は知らなくて、擬人化するという大前提を置く時点で、ついていけないという文化の方々も多いんですよね。
そこは日本が進んでいるのですね。
文化差が生む意図読みの精度と展望
大澤 この分野は、「空気を読む」文化が根強い日本の得意領域だと思っていて、相手の心に寄り添うようなAIが、日本から生まれてくる可能性は大いにあると思っています。HAIの研究で、心を読むという課題を日本語でやったらすごいうまくいった手法が見つかって、それをいろんな言語で翻訳してやってみると、ドイツ語で大崩壊したりするんですよね。全然うまくいかないので、ドイツ語の先生に聞いたら、ドイツ人に言外の意味を読むという概念はありません、と言われて。言ったことが全て、言ってないことはないという文化なんだそうです。そういう国ではAIが心を読むみたいな研究は難しいでしょうね。大規模言語モデルを使うとその差が露骨に出てきて面白いです。
日本人が得意な領域ですね。「IT批評」でも以前から言及しているのですが、ユヴァル・ノア・ハラリやレイ・カーツワイルの言っていることは、ユダヤ・キリスト教的な一神教的な考えに基づいていて、AIを考えるときにそういう宗教性が表れる。AIの擬人化に対して、諸外国はどういうスタンスなんですか。
大澤 HAIの国際会議を見ていくと、中国、アメリカは全然いなかったですね。意外とヨーロッパの方が多いんですよね。法規制されているから全然やらないかと思いきや、ドイツ、フランスとかからは来るし、北欧は親和性が高いようです。
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