iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く
第3回 日本のコンテンツが世界を魅了する理由

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

日本語のままでも世界とつながっていける

コンテンツビジネスとクールジャパンの関わりはどうなりますか。

中村 クールジャパンというのは、もともと食とか観光や工芸を指しています。コンテンツビジネスとは別物でバラバラにやっていたんですね。これを一緒にやらないと大きくならないですよと僕はずっと言ってきたんですけど、去年ぐらいから経産省は2つあった課をひとつにしました。政府は「クールジャパン再起動」と最近いいだしています。

日本のアニメも、80年代ぐらいから海外ファンが自分たちでテロップをつけて海賊版を流通させていました。ニーズがあり市場も見えていたのに、どこも出ていかなかった。やはり国内で充足していたので動かなかったということですか。

中村 そういう面もあるし、単純なビジネスの失敗もあります。全体的にコンテンツビジネスを大きくしていこうという機運がなかったですね。

最近はデジタルによって海外へ届ける仕組みもできて、ビジネスとして管理しやすくなってきたという面はありますね。

中村 売る先がヨーロッパやアメリカだけではなくて、全世界的に広がってきているのも大きいと思います。東南アジアや南米のマーケットの購買力が大きくなってきていて、デジタルを通じて世界的に売れるようになってきている。大きなビジネスチャンスだと捉えています。

日本のシティポップが再発見されたことで、それ以外のJ-POPも掘られるようになりました。日本のテレビの強さがコンテンツの強さだとするなら、ネットワーク上に過去の日本のドラマをオープンにした時に、世界で火がつく可能性も十分あるということですよね。

中村 「SHOGUN」があんなにウケるわけですから、いろんなチャンスが出てくると思うし、みんな狙っているような気がします。

大河ドラマも海外向けの優良なコンテンツになってきますよね。J-POPなどもあれだけハードルだといわれてたのに、今はそのまま日本語の歌詞でいけてますしね。

中村 オーディエンスが育ってきたんだと思うんです。京都の三つ星の和食の料理人が、「フランス人の舌を鍛えるのに20年かかった。これから和食うれるで」と言っています。出汁をわかるようになるまで20年ぐらいかかったんだって。日本の漫画を輸出するときに、昔は日本とは逆の綴じ方をしていたのが、最近は日本式の読み方をしたいからって言って、右開きに変えています。逆綴じの本が流通したのは、グーテンベルグが印刷を発明して以来、初めてのことでしょう。漫画の読み方を学習したということですね。

今は音楽も平気で日本語のまま海外で受け入れられています。昔は“日本語ロック論争”なんてものがあって、日本語で歌うべきか英語で歌うべきか議論を戦わせていましたけど、今の若い人はなんでそんなことを議論していたのか理解できないでしょうね。もう洋楽とか邦楽って言い方が成立しないってことが面白い。

中村 僕はK-POPの時代はそんなに続かないだろうと思っていたんですね。いろんな意味で層が薄いから。日本の音楽のほうが分厚くて、いろんな表現をする人がいて、だからいつかはなんとかなるんじゃないかなとは思っていたけど、ここに来て波が来たなって感じが本当にしています。

アニメのオープニングソングみたいな広がり方というのがまた面白いです。

中村 音楽つくっている人が、音と映像を縦割りではなくて総合表現として捉えている。ごく自然にアニメ表現と音楽が一体化しています。しかもグローバルが当たり前の世代ですから、日本語で普通に世界と繋がっていけるのがすごいと思います。

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