iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長・中村伊知哉氏に聞く
第3回 日本のコンテンツが世界を魅了する理由
コンテンツをビジネスにして広げていくには
なんの変哲もないお年寄りでも俳句や短歌ぐらいつくるのが当たり前の日本なんだから、一般の人がコンテンツをつくる土壌はふつうにある。その一方で、グローバル化やデジタル化ということを考えると、それをビジネスにして広げていく力は弱いように思っています。
中村 それは間違いなく弱くて、そういう分野の人材育成が大事だという議論が国のほうでもいつも出てくるんですけど、手は打てていないですね。結局、つくる人は1億人いるわけですけど、売る人が少ない。それは必ずしも日本人である必要もないんですけど、確保する必要はあって、そこが課題です。
日本人にとって、コンテンツをビジネス化するにあたって共通する問題はあるわけですか?
中村 日本でも、例えば海外で車を売っている人たちがいるわけで、ちゃんとコンテンツを売ってこなかっただけだと思います。ちゃんと売るスキルが身につくように人を育てればできることだと思いますし、最近、総合商社がIPとかコンテンツを扱うようになって、その辺は非常に期待しています。人材育成で言うと、うちみたいな新しいベンチャー大学が、クリエイティブ系のビジネスマンを育てはじめていますけど、それだけではなくて、全国の経済学部や経営学部や商学部のなかでも、コンテンツについてきちんと学ぶ仕組みをつくるべきだし、そのほうが早いでしょう。
コンテンツを大きなビジネスになると捉える発想もなかったんでしょうね。
中村 事実、それほど大きくはなかったです。いま大きくなってきているとはいえ、全部あわせても13兆円です。コンテンツだけだとそんなものですが、その周辺のビジネスのほうが圧倒的に大きいんですね。おもちゃとかお菓子とかファッションとか、ジェット機にポケモンいっぱい描きますとか、その波及のほうが大きくて、トータルすると10倍ぐらいあると言われています。ポケモンそのもののコンテンツの売上よりも、派生商品の売上のほうがうんとでかい。それをトータルでとりにいくかどうかなんですよね。国の政策レベルでいうと、観光とか食とかファッションとかを融合させて大きな産業モデルをいかにつくるかというのが今の課題です。トータルで100兆円ぐらいになるので、つまりGDPの5分の1ぐらいになるんですね。そのでかいマーケットを、もう少しきちんと戦略的にとりにいきましょうというのが今のテーマになっています。
そのあたり、韓国はうまくやっていますね。国内の市場が小さいから外にマーケットを求めるしかなかった事情があるとはいえ。
中村 韓国は1997年に経済破綻して、キム・デジュン政権が集中と選択をしようといって出てきた柱の1つがコンテンツでした。音楽とかドラマとか映画を海外で売っていこうと。その時に他に強いセクターとして家電や自動車があって、それらとくっつけて海外展開するのを国が後押しした。非常に単純でわかりやすいモデルを敷いて、10年、15年やって成功したということです。
韓国産のコンテンツも派生部分への期待が大きかったってことなんですか?
中村 派生というか、一緒に売りに行こうというモデルを最初から組んだってことだと思います。
民間の動きだけでは限界があるように感じるんですが。
中村 別にそんなことはないと思います。これまでは、漫画もアニメもゲームも音楽も、それぞれのジャンルが国内で食えていました。これから海外に出ていくに際し、横串を刺して他のジャンルと連携したらもっと大きくなるということをみんな認識しはじめました。去年あたりから経団連が盛んにこれからはコンテンツだと言いだしています。