ソフトウェアからハードウェアへ IT技術25年周期説で占う未来
第4回 再びクローズアップされる半導体をめぐる動き
中国が行く道はかつて通った道か
クリス・ミラーの『半導体戦争』で興味深く紹介されているのが、中国のベンチャーキャピタルであるシノベーション・ベンチャーズの創業者・李開復(カイフー・リー)の『AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」』(上野元美訳/日本経済新聞出版)だ。
著者の李は台湾で生まれアメリカにわたり音声認識の研究者となり、AppleのAI音声認識の開発者を務めた。中国にわたり、Googleの中国法人の代表を経てシノベーション・ベンチャーズを起こした人物だ。
タイトルにあるようにAIの進化によって雇用がどう変わるかを論点のひとつとしているが、仕事が奪われる式の議論ではない。むしろハラリのホモ・ユースレスの議論を一蹴している点など、同じ東洋人としてシンパシーを覚える部分もある。
しかし、それ以上に印象に残るのは中国の若者たちの姿だ。高学歴の天才エンジニアたちが無尽蔵の起業家精神を発揮してビジネスを推進していく様子には空恐ろしさを感じる。文化革命以後に生まれた彼らの野心、野望は、日本はもちろんアメリカでもなかなか見られるものではないかもしれない。事実、著者の李はアメリカのベンチャー企業の若者たちのモーレツぶりなど、中国人のそれとは比較にならないという。
そのうえで、競合からアイデアや技術をパクるだけでなく、徹底的に攻撃してそのビジネスを破壊してしまうバイタリティも中国にしかみられないものとする。いくつかエピソードがあがるのだが、すさまじいばかりである。
中国政府もその後押しを惜しまない。「大衆による起業、万人によるイノベーション」をスローガンにして、若者たちを支援する。そのうえ、他国にはない文化や風土もそれに味方する。
良くも悪くも、中国の政治文化は倫理問題に対して民意を汲みとる必要がない。成長や進化のためなら多少の犠牲を大問題とはしないからだ。
「IT批評」でもAI規制について、世界での対応の違いをみてきた。ナチスの反省から監視への強い懸念に基づいてAIを規制するヨーロッパ、公民権運動の反省から人種問題への敏感なリテラシーを重視してAIを規制するアメリカに対し、中国のそれは数回前のここの記事でとりあげたテクノ・リバタリアンの倫理観にもっとも近い。
つまり、今日の多少の犠牲がありうるのは、さらに未来のユートピア実現のためだという長期主義のロジックはそのまま中国の政治文化なのである。彼らはトロッコ問題に悩むことはないのかもしれない。人の命も数のロジックで整理できる、と。
わたしはしかし『AI世界秩序』における中国の台頭を、中国人自身の能力と努力によるものとする李の考え方は、そのまま1980年代、『NOと言える日本』に端的に現れた日本の財界人の驕慢と同じように見えてしまうのだが──。
李開復 (著)
上野元美 (翻訳)
日経BP
