東京大学大学院准教授 馬場雪乃氏に聞く
(2) AIを介してアップデートするコミュニケーション

FEATUREおすすめ
聞き手 都築 正明
IT批評編集部

多様な価値観のもとで足し算ではない集合知を実現する

カナダで発表(Educational Data Mining 2019)された、ピア・ラーニングやピア評価の研究についてもお聞かせください。

馬場 評価においては、まず評価者にその資質があることが重要です。私たちの研究では、評価者の信頼性も加味したうえで評価の集約をする技術を開発して、その問題解決をはかることを目指しました。評価をするというのは、とても難しいスキルですが、私たちは専門的なレクチャーも受けないままに評価をしているのが現状だと思います。これからは、人からよりよい評価を引き出すための技術をつくっていけるとよいですね。評価を細分化することも考えられますし、ある人への評価がほかの人の評価と矛盾していることを指摘してAI側から見直しを要求することでサポートするツールなどがつくれたらよいと思います。

学校教育では、教育評価というのは教育学では教育心理の1分野にすぎません。学習指導要領で観点を少し変えることはあっても、源流は40年以上前のメソッドに基づいていたりします。しかもそれが共有されないままになっていて、結局は経験とコツとカンだよ、となってしまう。

馬場 先ほどの研究者のサポートの話もそうですが、カンやコツですまされている部分を客観的なものにしていかないと、カンやコツの伝承も進みません。また評価される側からしても、どのような基準で評価されているのかという透明性がなければ納得できないでしょうし、修正のしようもありません。

学びということで考えると、GIGAスクール構想以降、個々のミクロな学びについてはAIがフォローする兆しがみえています。一方「主体的で対話的な深い学び」を掲げつつもグループワークやアクティブ・ラーニングについては定量的な観点が出てきていない気がします。

馬場 そこには、何人かをグループにまとめておきさえすれば相互作用が自然発生してよい学びができるのではないかという短絡的な発想がありますね。アクティブ・ラーニングやグループワークには、かなりのノウハウが必要ですが、教育現場ではノウハウのレクチャーを受けないままに、とりあえず形だけ整えているのかもしれないですね。さきほどの意見集約の研究は価値交換工学のなかで行ったものですが、このプロジェクトでは、さまざまな分野の研究者がそれぞれの観点から価値交換というテーマを捉えて研究をすすめています。私は、人によって価値観が違うという点に着目して、それぞれの価値観を尊重するための技術をつくっています。

先生の開発されたSwipeGANSpaceも多様な人々にひらかれたツールだと思いました。コマンドラインをGUIにしたように、プロンプトを視覚的に操作できるようにしたイメージです。

馬場 たとえば弁護士AIのアバターをつくるときに、ふつうはテキストでプロンプトを書いて画像を生成しますが、なかなか思ったようなものが出てこないので、プロンプトを調整します。しかし人によってはテキストをいろいろと考えるのは難しい作業です。このアプリはマッチングアプリのようなインターフェースになっていて、最初に候補の画像が1つ出てきて、それがイメージと合っていたら右にスワイプ、合っていなかったら左にスワイプします。スワイプするたびにAIが次の候補になる画像を推定して生成しますから、操作としてはイメージに合った画像が生成されるまでスワイプを繰り返すだけです。

考えてみれば、画像をつくるのにテキストを弄するのは迂遠な作業にも思えます。

馬場 このツールの開発は、言語化しなくても自分の発想をAIが形にしてくれればよいのではないかという発想のもとではじめました。人物画像生成のツールではありますが、私たちがテキストベースのコミュニケーションに依存しているなかで、言語化が苦手な人が不利な環境になっているのではないかという、さきほど紹介した論点を整理するAIと同じ懸念にもとづいて着想したものです。

「言語化」というワードが、意味や心情を言葉にするというよりも、言葉をつかってビジネスや人間関係を円滑にするスキルのような含意で使われることが多くなっています。

馬場 たしかにそうですね。コミュニケーションスキルやプレゼンスキルと同じような使われ方をしています。その能力が高くないとAIを使いこなすことができないのは本末転倒な気もします。

1 2 3 4