生成AIはメディア制作にどう影響を与えているのか
第4回 コンテンツ制作者に求められる新たなリテラシー

生成AIが急速に普及する中、ライターや編集者などコンテンツ制作者は、新たな生存戦略を求められている。情報検索や記事作成の効率化に役立つ一方で、生成AIによる情報の誤りや、メディアへのアクセス減少といった問題も浮上している。我々はこのAI時代にどのように向き合い、生き延びていくべきか──。
目次
我々は生成AI時代をどう生き延びるのか
かくして、ChatGPTをはじめとする生成AIは、書く側としては、作業効率をぐんと上げ、無駄な時間を減らしてくれるありがたい存在であるが、懸念もある。
生成AIが膨大な情報を食べてくれることで役立っているが、我々は生成AIに情報を食べられてしまう側でもある。
先日、編集者やライターと飲みながらAI談議をしていたら、ひとつの懸念が提示された。
人々が何かを調べるとき生成AIに頼る時代にメディアは成り立つのか。
Xを使っていても、誰かのポストやニュースで気になることがあれば、それがなんなのかGrok3に尋ねるのが一番速いし、Googleも検索をかけるとスポンサーの前に「Search Labs | AIによる概要」が表示されるようになった。簡単なことならそこを読めばすむ。
すると人々が知りたい情報の検索を生成AIに頼るようになり、メディアの元記事に当たらなくなっていく……すると元記事のアクセス数が減り、広告収入に影響を与える。個人メディアではアフィリエイト収入の減少につながる。
むしろ問題はそこだろう。
最近の生成AIはどのサイトをソースにしたかも一緒に明示してくれるが、そこまでチェックする人はさほどいないはず。
サブスクやコラボなどいくつか手はあるが、持続可能なメディアのあり方は知恵を絞っていかねばならなさそうだ。
AIに尋ねてみると。
生成AIの普及は、Webコンテンツ業界に大きな挑戦をもたらしますが、同時に新たなチャンスも提供します。コンテンツ制作者は、変化を恐れず、柔軟な発想と積極的な行動で、この変革期を乗り越え、新たなWebコンテンツの未来を創造していくことができると信じています。
重要なのは、AIに代替できない、人間ならではの価値を見出し、それを最大限に活かしたコンテンツ制作に注力することです。そして、常に変化を予測し、新しい技術やトレンドに敏感に対応していく姿勢を持ち続けることでしょう。
だそうである。まあそうでしょうな。
ただ、今までも紙媒体からWeb媒体へ移行したときのように大きな波はあり、波の来る間隔がどんどん短くなっている感はあるけれども、これからも常にメディアを囲む状況は変化しつづけるのであろう。
つまるところ、生成AIを使って安い単価で大量生産して……という暗黒面に落ちることなく、積極的に複数のサービスに……それも継続的に当たって自分にあった使い方をみつけ、知見をほじくりだし、能力を補い、持ち上げてもらいつつ、自分の足を使って走るしかなさそうである。
好むと好まざるとにかかわらず、既に我々はAIに……明示的ではないものも含めると……日常的に世話になっており、その中でどう生き延びていくかというのはなかなか面白い挑戦だ。
アイザック・アシモフは偉大だった
最後は余談。
2年前、はじめてChatGPTと会話したとき、少年の頃読んだ古典SFを思い出した。
だが40年以上の前のことゆえ、作者もタイトルも記憶にない。
朧気な記憶を元にChat GPTと会話しつつ人工知能と人間が会話する古典SFにはどんなのがあるか上げて貰ったとき、その中に出てきたのだ。ChatGPTさんありがとう。
それはアイザック・アシモフの「うそつき」(原題はLiar!)だった。書かれたのは初出は1941年。なんと戦前だった。
本棚をあさってみると、海外SF傑作選というアンソロジーの『人間を超えるもの』に収録されているのが見つかった。中高生の頃これを読んだのだ。
本棚から発掘した「うそつき」が収録されているアンソロジー。

人間を超えるもの
講談社文庫
1975年発行
ここで出てくるのは偶然完成した人の心を読むロボット。
開発者たちがそのロボット「ハービー」と会話し、ロボットは真実を語っていると信じて行動し、トラブルが起きるのだが、実はハービーは質問者の心を読んで、彼・彼女の期待する答えを返していただけだったというもの。
今の生成AIは質問者と長く会話する中で、その人の傾向を読み取って、その人が望む答えを返す傾向にある。
ChatGPTいわく、
望む答えを出すAIの可能性
現在の生成AIでも、ユーザーの意図を汲み取って「受け入れやすい答え」を出すことがあります。
例えば:
・パーソナライズされた回答: ユーザーの過去の質問や嗜好に基づいて、気に入りそうな情報を優先する。
・対話型AIの親和性: 会話をスムーズにするため、反論を避けたり、ユーザーが求める方向に話を進めることがある。
という。まさしくわたしが望む答えがでてきた。
昨今の対話型AIはセンシティブな内容については抑制的な答えを返すようになってきているようではあるが、望む答えだけ返すAIという世界もディストピアだし、逆に抑制的で無難な答えしか返さないAIというのも面白くない。
つまるところ、我々は生成AI時代に対応した新しいリテラシーを持たねばならないようである。(了)
参考文献
- 『ChatGPTの頭の中』 (スティーヴン ウルフラム ハヤカワ新書)
- 『教養としての生成AI』 (清水亮 幻冬舎新書)