読売新聞とNTTの共同提言についてクロサカタツヤ氏に聞く
(1)生成AIが加速する戦時下的状況としての現代

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

インベンションにおける変化のスピードを誰も想定できていなかった

桐原 この提言の内容自体は時間をかけて練られたんですね。

クロサカ 昨年末時点で検討は一度収束しつつあったのですが、どうやってこれを表現するか、揉みに揉みまくった。何かの政治日程を狙ったものではなくて、たまたま時間をかけたらこのタイミングでの発表になったということなんです。

桐原 提言を読みながら頭に浮かんだのが、ジェフリー・ヒントンが、2023年の5月にgoogleをやめたことです。その前まではすごく楽観的な言動が目立っていた第一人者が、急にもうこれ以上はまずいかもしれないと言いだした。画像生成でフェイクニュースが流れるみたいなことを例として挙げていましたが、もしかするとあの辺の研究者たちも同じようなレベルでの危機感を早い段階で持っていたのかなというのを提言を読んで思ったんですよね。

クロサカ その可能性もあります。こういう懸念は、ディープ・ニューラルネットワークを多少なりとも研究したり触ったりしている人たちであれば理解できることです。ただ、おそらくいまでも脅威に感じているのは、変化のスピードが早いということで、これは想定できていなかった。ここまで金が流れ込んできて、GPU乱獲競争になって、データセンターに電気が注ぎ込まれるようになるとは、誰も思わなかった。やっぱり予測不可能な状態にその時に入っていたんだということを認識したんだと思います。

桐原 提言では、「生成AIは人間が制御しきれない技術でありながら、今後はイノベーション(社会的普及に伴う変革)の段階に入る。」とあります。

クロサカ インベンション(発明)の競争は少しずつ収束に向かっていて、この後はイノベーションの競争になっていくんだと思います。インベンションの時に何が起こるかわからないという危機感はこの後は減っていくとは思います。一方、イノベーションとは普及のことなので、それを使って何かをしてやろう、ビジネスをつくったり、世の中を良くしてやろうと思う人たちが当然いるわけです。しかし逆に世の中を悪くしてやろうって人も出てくる。それがテクノロジーなんです、テクノロジーは常に中立ですから。そういう意味で言うと、ここからはむしろ人間の悪意が暴走する時代に入っていくんだろうなと危惧しています。

桐原 人の側の問題ですね。こうやってお話を聞くと、危機感をそれなりに持っていたつもりですが、リアリティと肌触りがそうとう変わってきた気がします。変化のスピードが早いことに対して、対応策が後手に回っているという感じなんでしょうか。

クロサカ 制限されては本当の発明(インベンション)は生まれないはずなので、技術的な進化が早いのは仕方がない部分があります。問題はイノベーションに移行していく際にどういう風に手懐けるかということです。つまり金とリソースが大量に短期間に注ぎ込まれた結果、インベンションの角度がきわめて強く高くつきすぎているんです。この投資を回収するのに、膨大なノルマが溜まっているので、とりあえず押し売りでもなんでもいいから売りに行けっていう話になるはずなんです。

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