存在論的不安がもたらす終末論とノスタルジー
シティ・ポップ・ブームから考える成熟後の近代

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著者 都築 正明
IT批評編集部

アンダーグラウンドに流入し、蒸発するシティ・ポップ

これらシティ・ポップの流行を受けて、かつての名盤がアナログ・リイシューされることも増え、しかも続々と品切れになっている。しかしそれ以前からも、日本の中古レコード店には多くの外国人客が訪れ、アナログ盤を大量に購入する姿が散見されるようになった。日本のシティ・ポップの旧盤を手にする姿もよく見られる。これは、かつてない円安のもとで日本がレコード・コレクターの恰好の「狩り場」になったからに他ならない。

日本のシティ・ポップの音源は、おもにvaporwaveというジャンルの音楽に「元ネタ」として用いられる。Raddit(掲示板型ニュースサイト)や4chan(“2ちゃんねる”創設者の西村博之が運用する匿名掲示板サイト)やその分派である8chan(現8kun)ウェブ上の音楽コミュニティから生まれ、Bandcamp(音楽販売サイト)などで販売される楽曲だ。主にパソコンとDAW(Digital Audio Workstation)のみでつくられる音楽で、日本の音楽を元ネタにした音楽群は現在、Future FunkというVaporwaveのサブジャンルとなっている。

もともとのvaporwaveは、商業施設でBGMとして流されるエレベーター・ミュージックやMUZAKといわれる、耳馴染みがよく印象にも残らない音楽をピッチダウンしたうえで拍をずらし、違和感をおぼえさせる音楽的な遊びだった。こうした楽曲の空虚なイメージは、無人のショッピングモールや旧型のゲーム機のヴィジュアルとともに配信されて、増幅されることとなった。当初これらは高度消費社会や物質文明への風刺であったものの、次第にノスタルジーとして受容されるようになっていく。ノスタルジーといっても、つくり手も受け手も、その時代を経験したわけではない。こうしたフィクションとしての高度消費社会と日本のシティ・ポップのビジョンとが合致して、より虚構性の高いジャンルが誕生することとなる。vaporwaveのオリジネイターとされるトラック・メイカー、Vektroidことラモーナ・アンドラ・ザビエル――MAC プラス、New Dreams Ltd、情報デスクVIRTUAL など複数の名義を使用――はbandcampのインタビューで、自身が影響を受けたものとして、今敏(アニメーター)、ナムコのゲーム、ディープWeb(検索エンジンからアクセスできないサイト)、陰謀論、トランス・ヒューマニズムなどを挙げている。こうした経緯もあり、vaporwaveはネットカルチャーと隣接するオルタナ右翼と呼ばれるリバタリアニストのBGMになっていく。

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