ジャーナリスト・服部桂氏に聞く
(1)言語の到達点としてのLLMと、そこから見えないもの
桐原永叔(IT批評編集長)
人類史のタイムスパンからテクノロジーを概観する
お話を伺うと、マクルーハンが指摘したメディアの聴覚から視覚への転換を服部さんご自身が辿られているようにも見受けられます。
服部 私は大修館書店が発行していた「月刊 言語」を創刊号からすべて持っています。自分でもなぜそこまで言葉に強い関心を抱いてきたかの理由がわからず、海外経験を通して外国語を学んできたせいだと思っていました。しかし最近になって、言葉こそが人間の知の基本要素であるせいで、興味を持つことになったのだということに思い至りました。そのうえで『アナロジア AIの次に来るもの』(ジョージ・ダイソン著/ 服部桂監修/橋本大也訳 早川書房)の解説にも書いたように、私たちが現代の文明として認識しているのは結局のところ、言語の所産に過ぎないのではないのかと考えるようになりました。その言葉の処理を自動化して行うために行き着いた先がAIであり、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)だと思い、その後に来るものを考えるようになったのです。
AIについて解説した書籍は多く刊行されていますが、ほとんどが1956年のダートマス会議の話題から書きはじめられています。コンピュータについてはノイマン型コンピュータやENIACなどハード面から解説されることが多いです。
服部 まずそもそも計算するとはどういうことか、ということから考えなければ、コンピュータの存在意義はわかりません。人類の歴史から考えると、人間がサルから分化したのは旧石器時代からです。諸説ありますがこれを仮に約300万年前だとします。その後、言語を発明したのは新石器時代の約3万年前とされています。クロマニョン人によってアルタミラやラスコーの洞窟絵画が描かれた時代ですね。この時代には人類が声帯を発達させて言葉を話すようになり、さまざまな種類の石器を用いるようになり、絵を描いたりもするようになり知能が発達しました。さらに3,000年ほど前にはアルファベットのような文字が発明されています。グーテンベルクが活版印刷を実用化したのは15世紀ですが、一般に普及した時期を科学革命が起きていた300年前として考えます。パソコンやスマートフォンの時代がはじまったのは最近のほぼ30年の期間です。非常に大まかな数字ではありますが、それぞれ10分の1ずつのタイムスケールで人類の文化が大きく変化しています。人類300万年の歴史の中で、言葉を使うようになったのはそのたった1%の期間にすぎません。さらに文字を使うようになったのは0.1%という、つい最近のことなのです。4大文明といっても人類史からすると無文字文明を含めると、ごく最近のことにすぎず、その後に言語を精緻にしていくことで、筋道を立ててものを説明できるようになり、法律を成文化して、人間がそれに従うようになったにすぎません。
知というものが言語を用いてシンボライズされるとともに、権威づけもされていくことになるわけですね。
服部 数字についても13世紀になってヨーロッパでアラビア数字が用いられるようになります。それらを活版印刷で整理して、書き文字が大量にコピーされていったことから科学革命がおきました。そして啓蒙時代に百科全書も作られて知識が整理されてテクノロジーが進み、産業革命がおこるわけです。そのように言葉が精緻化されていって、行き着いた先がコンピュータのアルゴリズムだと考えられます。
論理だけを取り出して抽象化させていったわけですね。
服部 それは言語の情緒的な側面を排して「このような場合には、こうしましょう」というルールを積み重ねて結論を出すというプロセスを、法律のように文書化して手順を定め、機械にさせているだけです。原理的には言葉の判断をコンピュータによって高速化しているだけですから、時間さえかければ人間にも同じ計算をすることができます。

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