富士通研究所・白幡 晃一氏に聞く
(2)ムーアの法則を超えて進化できないAIの進化をキャッチアップする
国産のLLM(大規模言語モデル)を開発することの意義
桐原 日本語LLMを開発すること自体が最終ゴールではなくて、開発できる基盤をつくるのが目的であるとおっしゃられましたが、国産であることの意義についてお聞かせください。
白幡 LLMはこれからの社会を駆動する基盤技術であり、そこから派生するAI技術は産業だけでなく、医療、教育、行政のあり方を変えていくことが予想されています。そこを海外の一部の巨大企業に依存するかたちになれば、様々な観点から大きな不利益となると考えています。日本語LLMを開発すること自体に価値があるのではなく、それを開発できる人材、ノウハウ、計算資源を国内に蓄積することが重要です。今年はたまたま言語モデルが流行っていますが、これからは言語以外のさまざまなデータを用いたマルチモーダルな学習2が盛んになると予想されます。前にも言いましたが、真の成果物は日本語LLM自体ではなく、この先爆発的に進化する深層学習の基盤技術をどこまで高められるかだと思っています。
桐原 海外企業に依存状態になっているにもかかわらず、そのことに不感症になっているとしたら怖いですよね。
白幡 何でも純国産にこだわる必要はないのだと思いますが、LLMみたいな基盤技術は、水道や電気と同じレベルのインフラになるかもしれない。そういったところは自分たちでやっていく必要があるでしょう。
桐原 社会インフラであるならば、必要な投資をしないと長期的に社会にとって不利益になります。
白幡 こう考えると分かりやすいと思います。交通網や電力網などは海外との技術的優位性を比較して整備するかしないかを決めませんよね。優位性があろうがなかろうが整備が必要なものです。交通網や電力網など実体のあるインフラとは異なりソフトウェアのインフラはバーチャルなため、これまでその整備の必要性を過小評価した結果、IT産業で大きく遅れをとっていると言えると思います。国産のLLMについても、優位性をベースに参入するかどうかを決めるような個別の業態への参入の議論をしているのではないことを理解していただけたらと思います。
桐原 今回の「富岳」によるLLM開発は産学官共同のものですが、そのスキームづくりについてもお聞かせください。
白幡 今回のような巨大なAIモデルをつくるようなことは、一社でやろうと思ってもできないんですよね。産学官もそうですし、企業同士が連携しないと実現化しないのだと思います。LLMについては、LLM.jpというところでそういったノウハウを共有する取り組みが行われています。お互いにオープンにして共有できるところは共有していったほうが、全体として底上げになる。ただ、特に民間ですと各社でそれぞれやっていくというところがあって、全てオープンにするとビジネスができなくなるということもあるので、そこはなかなか一筋縄にはいかないところもあると感じています。
桐原 社会的なインフラを整えたうえで、それぞれが競争できるような土壌にしていこうということですね。
白幡 そうですね。共通でできるところはやって、そのうえで各社でどんどんやっていくイメージです。組むところと競い合うところと、両面必要なのかなと考えています。 (了)