遍在するツールとしてのAI、偏在するアクセスとしての格差
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本当の未来
“遍在”と“偏在”
ケヴィン・ケリーは『テクニウム』は当初はテクノロジー批判のように──ケリーはユナボマーにシンパシーを示してみせたりするのだ──読めつつ、徐々にその思想を明らかにする展開になっている。最後に次のように書いている。
いつの日かわれわれは、制作可能な最も自立共生したテクノロジーは、人間の想像力を証明しているのではなく、聖なるものを証明しているのだと考えるようになるだろう。テクニウムの自律性が高まると、作られたものに対するわれわれの影響力は下がる。作られたものはビッグバンのときに与えられた方向性に従うようになる。新しい枢軸時代においては、最高のテクノロジーの成果は、人間ではなく神の似姿と考えられるようになるかもしれない。
わたしはこのレビュー記事のなかで繰り返し、テクノロジーの魔術化、宗教性について述べてきた。レイ・カーツワイルの思想には超人主義、トランスヒューマニズムのみならず反進化論的なものがあるのではないかと考えていた時期もある。きわめてキリスト教原理主義めいた──。
そんなカーツワイルの思想を嗅ぎとり、その著作のタイトルである『シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき[エッセンス版]』(NHK出版編集/NHK出版)は洗礼者ヨハネの「天は近づいた([マタイによる福音書]第3章2節)」という叫びを模倣しているとユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(柴田裕之訳/河出書房新社)のなかでいう。
シリコンヴァレーではデータ至上主義の預言者は、救世主を想起させる言葉を意識的につかっている
データ至上主義についても引用で説明を付しておこう。
データ至上主義は科学における二つの大きな流れがぶつかり合って誕生した。チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を出版して以来の一五○年間に、生命科学では生き物を生化学的アルゴリズムと考えるようになった。それとともに、アラン・チューリングがチューリングマシンの発想を形にしてからの八○年間に、コンピューター科学者はしだいに高性能の電子工学的アルゴリズムを設計できるようになった。データ至上主義はこれら二つをまとめ、まったく同じ数学的法則が生化学的アルゴリズムにも電子工学的アルゴリズムにも当てはまる。
わたしはこれまでこのハラリのベストセラーを読まずにテクノロジーの神格化についてカーツワイルをその代表者として述べてきた。えてしてそんなものだが、このユダヤ人歴史学者はより精密により丁寧に、同じことを論じていた。ふと、そこでようやっと「ホモ・デウス」の意味が腑に落ちたというわけだ。まったく情けない。言い訳だけしておけば、ハラリの『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(柴田裕之訳/河出書房新社)が世間で言われるほどの知的刺激をわたしに与えてくれなかったために、こっちの本には手が伸びなったのだ。いや、『サピエンス全史』に期待が大きすぎたせいかもしれない。ジャレド・ダイヤモンドの人類史に感じた若き日の喜びを、すれっからした40代にもおきることを期待したことが間違いだったのかもしれない。しかし、『ホモ・デウス』こそ読むべきものだった。
AIのみならず生化学でもテクノロジーが圧倒的に進化し、生物としてのヒトの限界を超えた人間はまさに“神”となる。同時に、こうした高度なテクノロジーは先進国や富裕層に偏在してしまうがゆえに不平等を拡大するとハラリはいう。第一次産業革命が資本家を生み出したように。
この点は先に挙げたケリーのいうテクニウムとはやや対照的な考えである。
“遍在”と“偏在”。
わたしのテクノロジー観はケリーに近い。
20世紀に訪れた情報革命において、テクノロジーはどんどん民主化されている。中央集権型から分散型へという方向性がテクノロジーを加速している。民主化がもたらす遍在こそが情報テクノロジーのコンセプトであるはずではないか。
テクノロジーは否応なくあふれでていくものであるし、テクノロジーがもたらす新しいスキルもほぼ普遍的に享受される。それは、ケリーがテクノロジーをわざわざテクニウムと呼ぶ理由だし、パーソナルコンピュータにしろ、インターネットにしろ、スマートフォンにしろ、結局のところそれは世界に拡散していく。そうしてデータ化を促進し世界を情報(≒アルゴリズム)のなかに収束させていくのだ。こう考えたほうがわたしにはなじむ。
ふと思うのだが、ハラリのいうテクノロジーのあり方は一神教的だし、ケリーのそれは汎神教的である。ハラリがユダヤ人であること、ケリーがヒッピーのようでありその奥さんが東洋人であることと果たして関係があるだろうか。ここでは深く立ち入るのはよそう。
シンギュラリティは近い [エッセンス版] 人類が生命を超越するとき
レイ・カーツワイル (著)
NHK出版 (編集)
NHK出版
ホモ・デウス 上下合本版 テクノロジーとサピエンスの未来 ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ (著)
柴田裕之 (翻訳)
河出書房新社
ユヴァル・ノア・ハラリ (著)
柴田裕之 (翻訳)
河出書房新社
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