AIが加速する宇宙データの活用
第3回 衛星データで都市を守る「宇宙水道局」の挑戦

深刻な老朽化と人手不足に直面する水道管の漏水問題。膨大な宇宙データとAIを組み合わせて漏水リスクを高精度に予測し、効率的な保守・更新を可能にする新たなソリューションが注目されている。
目次
宇宙データAIを活用した水道管の漏水検知
宇宙データは膨大で、適切な処理には多くのリソースが必要となる。かつてはその効率化のためにデータ量を間引いたり、事前の整形など下処理が必要なケースもあったが、AIの登場によりその処理速度、精度が劇的に向上している。
今、その利活用において注目されているのが水道管の漏水検知だ。水道管の漏水事故は、年間2万件以上にのぼり、漏水によって無駄になっている水は1日あたり300万人分以上となっている。耐用年数である40年を超えた管路は16万kmとなっており、水道管の更新費用は年間32兆円以上にもなる。
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このように、水道管の漏水対策、保守・保全作業は、自治体にとって大きな負担となっており、管路更新率は年々下降の一歩を辿り、現在は0.64%にとどまっている。このペースで更新すると全ての更新に156年かかる計算となっており、現実的ではない現状がある。
その背景にあるのが、広範囲に張り巡らされた水道管であり、少子高齢化による財政難、人手不足だ。皮肉なことに、節水機器の普及や節水意識の浸透によって水道の使用量が減少。特に地方は人口減少もあわせて有収水量(売り上げ)の減少が続き、財政難を加速させている現状がある。そこで求められているのが、コストのかかる総当たり的な漏水検査ではなく、漏水リスクの高いエリアを選定して重点的に漏水調査、対策を行う「効率化」だ。
漏水調査の最適化にはいくつかのソリューションがある。
イスラエルの企業アステラ社は、漏水検知のための土壌水分検知が可能となる「L バンド」を用いた SAR 画像解析技術により、地中にある水道管の漏水箇所の検知を行う。従来の漏水調査よりも、衛星データから「あたり」をつけて漏水疑い箇所を選定、重点的に調査することで、効率の良い漏水検知を可能とするものだ。漏水箇所の土壌が周囲と異なる状態になっている(電波の反射の状態が異なる)ことに着目し、効率化を目指すとしている。
一方、AI/機械学習を用いてインフラの劣化状況を予測するソフトウェアを提供するのが、フラクタジャパン株式会社だ。アメリカで起業され、2023年には、日本の栗田工業株式会社による100%出資子会社となる。同社の「上下水道事業のDX:ビッグデータ×AIによる管路リスクの予測診断」が「第8回インフラメンテナンス大賞」内閣総理大臣賞を受賞するなど、存在感を示しつつある。AIによる管体漏洩、継手漏洩において、管種ごとにAI予測モデルを構築。例えば、交通量の多い地中の管なので、劣化が進みやすいなど環境や素材などを複合的に判断することで、劣化予測するものだ。
漏水リスクを高精度に診断・評価する「宇宙水道局」
そんな中、衛星データとAIを活用し、水道管の漏水リスクを高精度に診断・評価するソフトウェア「宇宙水道局」をリリースしたのが先に紹介した天地人である。衛星データと地上データを総合的にAIが解析し、水漏れが発生または1〜2年以内に起こる可能性が高い場所を特定する。
対象ポイントの地表面温度、土壌、標高、植生、土地の利用状況、地盤変動などのデータと、水道局から提供される管路情報、過去の漏水箇所、水道管の素材などの情報を加えてAIが解析する。
衛星データの活用としてユニークなのは、世界各国の500基以上の人口衛星から得た衛星データと、自治体や起業など顧客から得た地上センサーや統計データなどを重ね合わせ、複合的にAIで解析するというポイントだ。
特に、地表面温度が配管に与える影響の関連性などに着目。地表面温度や地盤変動等が漏水リスクと関係することを見出した世界初の技術により、管路の健全度を判定する。さらに、管路が機能停止に陥った場合、どれほどの範囲、規模で生活や経済活動に影響が出るか、災害時にどの程度のリスクとなるかを総合的に判断した重要度の評価も定義。健全度と重要度の総合評価によって「更新すべき管路」と「今後の予算・人員配分」を可視化、限られた予算、リソースを最適化できるとしている。
実際、導入した自治体では10kmあたりの漏水発見効率は、従来の音聴調査と比較して6倍、漏水1箇所あたりの費用は79%減と効果を上げている。
このことから、天地人では、地表面温度情報を拡充させるため、自社で「衛星開発」を行うと発表。2027年までに初号機を打ち上げ、その後順次拡充させてゆくという。自社開発、打ち上げを行う理由としては、「地表面温度情報」を観測可能な衛星は世界的にも少ないので参入価値があるとしている。衛星が増えることで精度が高くなり、漏水リススクの評価がより精緻になることが期待されている。さらに、地表面温度などの衛星データは、山火事や火山噴火などの防災面、航行データを表示していない船舶などの航跡をとらえるなどの防衛、安全保障面でも効果が期待されるという。