大阪大学社会技術共創研究センター長・岸本充生氏に聞く
(3)企業が目指すべき「社会技術」という競争優位

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

リスクアセスメントというテクノロジーを取り込む

岸本 ELSI対応プロセスをきちんと定めて、そのプロセスに則ってやっていくということであれば、僕は顔認識技術をはじめどんな技術もどんどん開発していいと思います。社会実装時にプライバシーポリシーや利用規約などに相当するものを本当に分かりやすく、こういうリスクがあってこういう対策をしているので、リスクが最小限に抑えられていますとか、あるいはこんな利用はしませんとか、きちんと書かれていないといけないと思うんですよね。今は、そういう検討をしたり、書いたりしなくてもいいことになっています。今は法律で義務付けられていなくても、そういった手続きはいずれ必要になるだろうと考えて、そこは意識しといたほうがビジネス的に優位になると思います。

桐原 先端技術を社会にどうなじませるかについてELSI的な視点を持つことが優位性につながるわけですね。

岸本 気を付けないといけないのは、アメリカでも規制が厳しくなりそうだということです。われわれは、ヨーロッパは規制に厳しくて、アメリカは自由奔放、日本は真ん中だみたいな、そんな漠然としたイメージを持っていますが、生成AIに関してはアメリカが今すごく規制に乗り出しています。大統領府もそうですし連邦取引委員会(FTC)もそうですし、いろんなところが動きだしています。FTAはFTC法という法律に基づいて執行するのですが、第5条で「不公正又は欺瞞的な行為又は慣行」を禁じていて、厳しく適用してくる可能性があります。そこで日本は今ソフトロー的なアプローチ一辺倒でいこうとしていることに懸念しています。日本だけがグローバルスタンダードから置いていかれる懸念です。

桐原 そうなんですね。EUのGDPRとは別の観点で厳しくなりそうだと。

岸本 アメリカは差別の問題に対して敏感なので、ブラックライブズ・マター(BLM)運動のときには公的機関が顔認識技術の使用を禁止する条例があちこちの州でできました。そういうバイアスとか差別の問題に引っ掛かると、アメリカは早いですね。規制が緩いことは技術開発する側には一見いいように見えますけど、規制に対応する技術の開発が遅れることになるので、長期的に見たら取り残される可能性はあると思うんです。

桐原 規制も技術的な対応なんだから、そういうことですよね。

岸本 例えば事前にリスクアセスメントしないといけないという規制があったら、そのリスクアセスメントのやり方を開発しなければなりません。我々はこういった技術を「社会技術」と呼んでいます。まさにテクノロジーそのものですよね。規制が緩いことで、そうしたテクノロジーの発達が遅れる可能性があります。

桐原 昔の車の排ガス規制がそうでしたよね。日本のメーカーは真面目に頑張ったので、日本車が世界を席巻した時代がありました。

岸本 将来的に厳しくなるんだったら、早く規制したほうが、そのときはつらいかもしれないけど、対応する技術が鍛えられ成熟していきます。

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