大阪大学大学院教授・藤井啓祐氏に聞く
(1)量子超越を可能にしたエンジニアリング視点
プラクティカルなフェーズに突入した量子コンピューター
桐原 量子超越はブレークスルーで言ったら、数十年に1回のレベルという話ですか。
藤井 量子コンピューターが古典コンピューターを乗り越える瞬間は、人類の歴史上で1回しかないです。
桐原 なるほど、まったく新しい世界の扉を開けたわけですね。
藤井 よくたとえられるのがライト兄弟のフライトです。あれも結構いろいろ疑惑があって、最初は12秒しか飛んでないとか、後年に検証のために同じ設計でつくった飛行機は飛ばなかったとか、向かい風が非常に強かったから飛んだんだとか。細かいことを言いだせばキリがないのですが、重要なのは翼や動力を設計したら人間が乗ったまま地上から離れて移動ができることを見せたという事実です。それ以降、飛行機はどんどん改良が進んで、飛ぶのが当たり前の世界になりました。量子超越も同じことです。絶対無理だと言っていた人も、今や量子超越という量子コンピュータにとって有利な問題設定で勝つのは当たり前で、今度は役に立つことをやってみせてくれと言っています。完全にマインドがリセットされています。
桐原 常識がアップデートされたのですね。
藤井 それまで得意な土俵でも古典コンピューターに敵わなかった量子コンピューターが当たり前に勝てるようになって、「絶対無理だ」と思ってた人たちに「じゃあ、役に立つ問題を解いてみろ」と言われるレベルにまで進化したわけです。これで量子コンピューターはプラクティカルなフェーズに入っていけた。通過儀礼と言ったのはそういうことで、量子超越はもう過去の話であって、役に立つ問題でアドバンテージを見つけましょうという時代に入っていると思います。
桐原 今のお話をお聞きして、気球の時代にグライダーで飛んで見せて飛行機という機械を誰もが想像できるようにしたオットー・リリエンタールを思い出しました。