ERATO 脳 AI 融合プロジェクトメンバー 紺野大地氏に聞く
(3) 人と AI とが共存するカギを探る

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

新しい説が認められる過程には世代交代が大きく作用する

診断の時点では、AI による NLP(Natural Language Processing:自然言語処理)によって対話を解析して、90 %の精度で認知症の罹患判断ができる、という研究が出ています。素人としては、そういった手法と併せて治療に取り組むと、脳深部の刺激までのスキームを確立しやすいと思うのですが。

紺野 そうですね。今まで医師の経験則に頼って治療診断がなされていた分野を、バイオマーカーに基づいて診断するのはとても大切だと思っています。その意味では、自然言語も含めたビッグデータを人工知能を用いて解析することが効果的だと考えています。

現役の医師の方々は、そういったことに前向きなのでしょうか。

紺野 私が接している医師の方々のうち、人工知能に興味がある方というのはそれほど多くなく、肌感覚としては 2 割ぐらいではないでしょうか。

そうすると、BCI(Brain-Computer Interface)の技術開発が進んでも、医療現場に浸透するには時間がかかるのではないでしょうか。

紺野 医療にかかわらず、新しい説が認められる過程には世代交代が大きく作用すると思います。一気に全ての医師が BCI を取り入れるというよりは、AI や新しいテクノロジーに関心のある若い医師を中心に、医学界でも徐々に広がっていくのではないか、と思います。

日本は新薬や新しい療法の認可のプロセスが複雑で、臨床に至るまでに時間がかかるイメージがあるのですが。

紺野 その意味で慎重な面はありますね。

一方、日本では小規模のクリニックに CT 装置や MRI 装置があったりと、医療機器の普及率は高いですよね。また、医療ドラマで最先端だとされている外科手術支援ロボットを、身近な病院で見かけて驚くこともあります。

紺野 確かにハード面で新しいものを取り入れることについて、日本人は抵抗が少ないのかもしれませんね。実際に日本は人口あたりのCT装置、MRI装置の数が世界一であり、脳の画像データを数多く取得できるというのは、大きなアドバンテージになります。

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