脳+AI時代の透視図
ERATO 脳 AI 融合プロジェクトメンバー 紺野大地氏に聞く(1)

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

脳と AI とを融合させるーーこれまで SF で描かれていたような世界が現実になりつつある。イーロン・マスクが設立した Neuralink をはじめ、脳とコンピュータをつなぐ BMI (Brain Machine Interface)の新技術が、陸続と発表されている。東京大学の松尾豊研究室で人工知能について、さらに池谷裕二研究室で脳の基礎研究に従事しつつ、池谷教授の「ERATO 脳 AI 融合プロジェクト」に参画する紺野大地氏に、その最前線と未来像を聞いた。

紺野 大地(こんの だいち)

医師・神経科学者。1991 年、山形県生まれ。2015 年、東京大学医学部卒業。2018 年、東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院老年病科医師。池谷裕二研究室と松尾豊研究室にて脳と人工知能の基礎研究に従事。「ERATO 池谷脳 AI プロジェクト」メンバーとして脳や人工知能の研究を通じて「脳の限界はどこにあり、テクノロジーによりその限界をどこまで拡張できるのか」を探究している。 著書『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』(講談社)。Twitter(@_daichikonno)や NOTE(https://note.com/daichi_konno/)で脳・人工知能・老化について情報発信するほか、メルマガ”BrainTech Review”で最新研究を紹介する。

目次

脳 AI プロジェクトの4つのアプローチ

都築正明(以下、――) まず、先生の取り組まれている「脳 AI 融合プロジェクト」の内容についてお聞かせください。

紺野大地氏(以下、紺野) 4つのアプローチから進めています。 1つめが「脳チップ移植」です。これは、私たちの脳が、生まれつき持っている五感のほかの感覚を知覚する能力を持っているのではないか、という疑問から出発しています。言葉を変えれば、私たちが脳の能力を使いこなせていないだけではないか、ということですね。そこで、脳に地磁気や赤外線を感じるセンサーチップなどを直接埋め込んで、五感では感じられないような情報をフィードバックして、脳がそれを活用できるようになるかを実験しています。こちらについては、ネズミが地磁気の情報を柔軟に使って迷路を解くことができる、という研究結果を 2015 年に論文発表しています。原理的には、地磁気だけでなく、赤外線や超音波などについても感覚を拡張することが可能だと思います。また、そこから発想を広げて、心拍数や体温、筋電位など体内からの情報を脳にフィードバックして、それらを意図的にコントロールできるようにならないか、ということにも取り組んでいきたいと考えています。

体内のシグナルを使うことで、たとえば筋電図の情報をフィードバックして、義肢を動かすようなことが可能になるのでしょうか。

紺野 そうですね。仮に心拍数や体温を自分でコントロールできるようになれば、不整脈や頻脈があるときや、熱が通常より高くなっている時に、自分の意図で下げたりすることもできます。血糖値が制御できれば、糖尿病に対する新たな治療法を生み出すことができるのではないか、ということも考えています。地磁気や赤外線、超音波などの外部からのシグナルについては、患者さんへの適用というよりは、脳の限界を拡張していこうというポジティブな動機から進めています。

幻肢痛を持つ患者さんに、失っていない腕を鏡に映して見ることで治療する、ラマチャンドランのミラーボックスのような治療が、あらゆることで可能になるかもしれない、ということでしょうか。

紺野 おっしゃる通りだと思います。

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