人と AI とが共存するカギを探る
ERATO 脳 AI 融合プロジェクトメンバー 紺野大地氏に聞く(3)

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

脳とAI が融合することで、これまで使われていなかった脳の領域が開発され、人間は新たな知覚を獲得することが期待されている。我々が考えるよりも脳には可塑性があるということだ。今回は、脳とAI が融合するロードマップや身体概念が変わることで何が起こるのかについて伺った。

紺野 大地(こんの だいち)

医師・神経科学者。1991 年、山形県生まれ。2015 年、東京大学医学部卒業。2018 年、東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院老年病科医師。池谷裕二研究室と松尾豊研究室にて脳と人工知能の基礎研究に従事。「ERATO 池谷脳 AI プロジェクト」メンバーとして脳や人工知能の研究を通じて「脳の限界はどこにあり、テクノロジーによりその限界をどこまで拡張できるのか」を探究している。 著書『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』(講談社)。Twitter(@_daichikonno)や NOTE(https://note.com/daichi_konno/)で脳・人工知能・老化について情報発信するほか、メルマガ”BrainTech Review”で最新研究を紹介する。

目次

脳 AI 融合の臨床への道のりと可能性

先生が医学の道を志したのは、どうしてですか。

紺野 中学生・高校生のころは野球に夢中で、怪我をして悔しい思いもしましたので、医学に興味を持ちはじめました。東京大学の理科Ⅲ類を受験したのですが、残念ながら不合格になってしまい、後期日程で合格して理科Ⅱ類に進みました。医学の道に進みたい、という意思は持ち続けていたので、進学選択(進振り)を経て 3 年次から医学部に進みました。また、大学 1 年生のときに池谷裕二先生の『進化しすぎた脳――中高生と語る「大脳生理学」の最前線』(講談社ブルーバックス)などを読んで、以降漠然と脳に興味は持っていました。

結果的には、工学と医学とを両立する脳と AI の研究に携わられているわけですが、診療科はどのように選択されたのでしょう。

紺野 診療科を選ぶにあたり「自分がいちばんなりたくない病気に取り組もう」と考えました。家族や友人にもどんな病気になりたくないかを質問して回りました。がんと答える方も多かったですし ALS と答える方もいました。そうして改めていろんな人に接するうちに、友人や家族、そして自分自身のこともわからなくなっていく認知症はとりわけ悲劇的な疾患だ、という思いが強くなりました。そこで、この病気をなくしたい、という思いで老年病科に進みました。

ご卒業後、研修医としての期間を経て、大学院から脳研究に携わられた、ということですね。

紺野 はい。認知症の患者さんを診ていくうちに、病因である脳の基礎研究に携わりたい、という思いが募り、池谷先生の研究室に入りました。大学院 1 年生のときに脳 AI 融合プロジェクトが立ち上がり、現在に至ります。

認知症の患者さんの治療には、脳 AI プロジェクトの成果をどう活かせそうでしょうか。

紺野 認知症については、なかなか難しい点も多いと思っています。脳に電気的な刺激を与える脳深部刺激療法は、広がっていくだろうと思っています。その際に、私たちの脳 AI 融合プロジェクトのアプローチ2 のように、患者さんの脳活動を AI で解析して、適切なタイミングで適切な場所を刺激することで、これまで治療が困難だった方も治るでしょうし、副作用も軽減できるのではないかと思っています。脳に電極をつけるというのは、かなり侵襲1度が高いので、その適用については慎重に探らなければならないと考えています。

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