神話の構造がエンパワーする“人間”への帰依
2つの神話体系
先に、キャンベルの神話構造については世界各地に見られると書いたが、実は少し注意が必要だ。キャンベルが分析した“英雄の冒険”といった神話構造は主にユーラシア大陸からアメリカ大陸に見られるものである。
実は神話にはもう一つの構造がある。それはアフリカ、オーストラリアを中心とした地域に見られるものだ。
ユーラシア大陸からアメリカ大陸に見られる構造を「ローラシア型」と言い、アフリカ、オーストラリアを中心とした地域に見られるそれを「ゴンドワナ型」という。ローラシア、ゴンドワナと聞いて大陸移動説を思い出せるなら、それぞれがいかに伝播していったかを想像しやすいかもしれない。
ローラシア型に比べると、ゴンドワナ型はより古く個々の神話の共通性は弱い。しかしながら、動物や自然、精霊や神と人間に階層がなく共存する世界像では一致する。ゴンドワナ型は、ホモ・サピエンスがアフリカに誕生しアフリカを出てインド、インドネシアを経由してオーストラリアのアボリジニにまで広がったと考えられており、ローラシア型より古いのはこの点による。これも大陸移動説の大陸の動きに沿う。
一方のローラシア型は、時間をかけて地球全域にホモ・サピエンスが定着していった後に成立したと考えられており、現代の私たちが接する物語にも共通の想像力の働きが見られる。キャンベルが“英雄の冒険”としたのは主にローラシア型にみられる。
ローラシア型の構造は、西アジアから広がったアブラハムの宗教の各経典にも受け継がれている。モーゼやイエス、モハメッドをカリスマにするのは、この構造によってともいえる。いや、ブッタの半生も正しく貴種流離譚であり同じ構造とみるのも難しくはない。私たちが何らか大きな力に救済を求めるとき、その展開は神話の構造に沿っているのも宜なるかな、というわけだ。
日本神話について付記しておくと、ローラシア型の構造を色濃く持ちながらも、ゴンドワナ型の残滓も見られ、2つの型の混合だとする研究もあるようだ。それだけでも、日本人の祖先がどこから来たのか、想像を逞しくさせる。
この神話の2大構造については『世界神話学入門』(後藤明著/講談社現代新書)がわかりやすい。
世界神話学入門
講談社現代新書
ISBN:978-4-06-288457-0
