『AIバブルの不都合な真実』著者・クロサカタツヤ氏に聞く
第2回 土地・電力・データ、AIインフラを巡る課題

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

AIデータセンターの建設ラッシュが進む日本だが、土地や電力など適地の確保は困難を極める。都市型データセンターの景観・排熱問題も議論されるなか、AIの電力需要や投資回収モデルは一枚岩ではない。クロサカ氏は何よりも「学習データの不足」という根本的問題が横たわっていると指摘する。

取材:2025年11月7日 オンラインで

 

クロサカタツヤ

株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に株式会社企を設立。通信・放送セクターの経営戦略や事業開発などのコンサルティングを行うほか、総務省、経済産業省、OECD(経済協力開発機構)などの政府委員を務め、政策立案を支援。2016年から慶應義塾大学大学院特任准教授、2024年からジョージタウン大学客員研究員を兼務。著書に『5Gでビジネスはどう変わるのか』(日経BP)、『AIバブルの不都合な真実』(日経BP)。その他連載・講演等多数。

 

目次

AIの電力需要は一枚岩ではない

中国は勝てるのか?データ欠如という根本的限界

 

AIの電力需要は一枚岩ではない

本格的に日本もデータセンターの大型化が進んでくるのでしょうが、それにふさわしい土地がどれだけあるのでしょうか。

クロサカ 日本で土地と電力を掛け算していい条件の場所を探すのは至難の技ですね。適地かどうかというのは、立地という側面だけではなく、地盤の強さが重要になってきますから。残念ながら、とりわけ関東圏は本当に場所がないので、10年前であればこんな土地にはぜったい建てないだろうという埋立地みたいなところにデータセンターをつくりはじめています。

そういう場所にはリスクがあるということですよね。

クロサカ 地震に耐えられなかったら大変なことになります。

そういうことですよね。地震でデータセンターが止まることによる社会的な影響は大きいですよね。

クロサカ 一方で、地盤が強くて水利に恵まれたところは、そもそも土地としての稀少性が高いんです。私が暮らしているアメリカ東海岸のように、そもそも地質的に古くて小規模の地震さえも滅多に起きないところはさておき、日本の業界ではすでに重要課題です。

そう考えると、一民間企業で考えられる構想の限界に達している話とも思えるのですが。

クロサカ 限界に達してきていますね。恵まれた土地は有限で、当然そこは他の目的で、たとえば人間が住みやすいとか農業がしやすいとかいう理由でインカバント(現有者)がいるわけです。その人たちに「これから、AIデータセンター産業が盛り上がるから、ごめんなさい、どいてください」なんてことをやれるのかどうか。いっときの成田空港問題みたいなことにもなりかねません。

三里塚ですね。そうなると、データセンターが建つまでに30年も40年もかかる可能性がありますね。

クロサカ すでに日本でも、あまりにもデータセンターが住宅地に迫りすぎているということで、「都市型データセンターあり方検討会*1」というものが、東京、千葉、埼玉3都県の住民や有識者が中心となって設立されました。

それは住環境が悪くなるということですか。

クロサカ そうです。景観も含めた住環境の悪化ですね。2つ論点が出ていて、1つは建物の圧迫感による景観と日陰の問題です。景観は見てくれだけではなくて、通学路で日陰ができちゃうことによる治安の問題も含まれます。もう1つは排熱ですね。

やはり周辺の気温が上がるのは否めない。

クロサカ 気温上昇及び関連する熱中症リスクが懸念されています。

生成AIの開発と電力供給の関係は重要なトピックになっていますが、「原子力発電には後ろ向きだけれど、AIでイノベーションを起こさなきゃいけないというのは国策として矛盾していないか」という論調もあります。クロサカさんはどのようにお考えでしょうか。

クロサカ これは、AIの電力需要について分解して考えないと雑な議論になると思います。たとえば、推論を含む仕上がったAIを使う場合には、データセンターはエンドユーザーの近くにあったほうがいいんです。むしろエッジ側に置いたほうがいいんですね。そして、エッジに置かれたものはそこまで電力がいらないんです。一方で、教師あり学習みたいに時間をかけて練りあげるAIは、エンドユーザーは触らないので、山奥でいいし、発電所の近くでいい。この2つを議論として混ぜてしまうと、おかしなことになるんですね。前者のユーザーに近いところのAIは、マイクログリッドだとかスマートグリッドが合っているんです。ここは人間が寝ているあいだにAI需要はそれほど発生しないので、夜は稼働しなくてもいいという話になる。巨大な発電所をつくるのではなくて、ディマンドレスポンス含めて、最適配置とか需給バランスの最適化について、系統を含めてものすごく細かく制御することが重要になるので、それと発電所のそばにデータセンターを置きましょうというのは別議論なんです。

よくわかりました。核融合発電とか、新しい発電の方法に関する議論は、日本は活発ではないような気がするんですけど、どうなんでしょうか。

クロサカ 基礎研究を細々とやっている状態だと思います。常温核融合といった基礎研究に国がお金を出したり出さなかったり、という長期的な継続性の欠如が大きいですね。核融合技術や量子コンピュータのように、人間が普通に使うには両手で数え切れないくらいのブレイクスルーが必要な基礎技術は、まだマーケットには乗らないんです。

マーケットの原理では機能しないんですね。

クロサカ アメリカですら国の金でやっているわけです。で、少しでも仕上がってきたときにアメリカはすぐに民間が入ってくるんですけれど、いちばん最初の仕上がる前のところというのは、いずれにしても国のお金を使うことが多いわけですね。ここを日本は実は一貫性なくやっている。量子コンピュータも最近やっとまた出てきましたけど、長い量子コンピュータの歴史のなかで、ちょっと前には予算を切られて冬の時代だったんです。そのあいだに、たとえば東京工業大学(現:東京科学大学)の西森秀稔先生の量子アニーリングの技術*2に着目して、Googleが買収したカナダのD-Waveシステムズが先んじて実装したみたいな話があります。これはグランドストラテジーの不足であり、科学技術政策の課題だと思います。

 

中国は勝てるのか?データ欠如という根本的限界

不動産業と化しているデータセンタービジネスのお話を伺いましたが、GPUの進化の速度で言うと、いったん投資しても、データセンターが完成するころには技術としては陳腐化してしまっていて、投資のサイクルが見合わない問題があるように思うのですが。

クロサカ それももちろんありますけど、そもそも売上の立て方も分からなければ、利益も当然出せていない。その割に設備投資だけが莫大に積み上がるが、それを正当化するロジックがシンギュラリティのような「物語」ばかり。これが問題なのです。

となると、データセンターにせっせと投資している人たちは、どうしても投機的というか、バブル的にならざるを得なくなるということですよね。

クロサカ 基本はそうですね。Googleでさえ、数字を見るといまだに広告が収益の柱で、AI関連で売上が立っているのはクラウド利用が中心。ただし、NVIDIAだけは別なんです。先ほど申し上げた通り、お金を払わずにGPUを買うことはできませんから。

そうですね。NVIDIAはちゃんと利益が出ている。

クロサカ 他はみんなお金が回っていないんですよ。NVIDIAは、つくればつくっただけ売れていくので、売上げがちゃんと立つんですよ。

そうか。あとは台湾のTSMCみたいなファウンドリとか、要するに半導体しか儲かってない。

クロサカ そのなかでもいまはNVIDIAなんです。なぜかと言うと、パラメーター競争をしているから。パラメーター競争をする限り、トップティアのGPUが欲しくなるわけですよ。そこに中国のDeepSeekが仕掛けているのは、まさしくゲームチェンジャーとしての戦い方ですよね。パラメーター競争は必要ないでしょうと。パラメーター競争を否定すると、ティア1じゃなくて、ティア2、ティア3のSOC(システム・オン・ア・チップ)*3で良くなるわけで、ここを競争力のある端末を含めてファーウェイ(HUAWEI)がつくれると。DeepSeekのベンチマークとして、彼らの子会社であるハイシリコンのSOCが念頭に置かれていることは、すでに公表されています。

面白いですね。ルールが変われば勝負が変わる。国際競争はかつてもいまもそういう力学で動いているんですね。

クロサカ じゃあ中国が勝てるのか。ジェンスン・フアン*4がこのままだと中国のほうが勝つって言ってましたが、私はそれも楽観視しすぎていて、いわば彼流の牽制球なんだと思っています。なぜなら、中国でさえもビジネスモデルがないことに変わりはないからです。もっと言うと、パラメーター競争をしようとしなかろうと、生成AIは結局のところ機械学習なので、データがなかったら終わりじゃないですか。データを再生成するアプローチでやってますが、まだまだですよね。

そうなんですね。

クロサカ 既存のフレッシュで堅牢なデータのほうが圧倒的に価値が高くて、何で再生成すればいいかを試している状態です。先日、米国のNIST(米国国立標準技術研究所)の研究者たちとも議論しましたが、再生成についてはいろいろ課題意識が強かったですね。彼らが発行しているガイドラインにもそれはにじみ出ていると思います。

日本のAIベンダーも一生懸命にAIソフトウェアのサービスをつくっていますが、利益を出しているのはAWSやAzureで、デジタル赤字になっているというのが実態です。インフラに近いところしか利益を出せていない。

クロサカ 学習そのものというよりも、学習するための場所代を稼ぐビジネスが儲かっている。つまりそれが不動産ビジネスということですね。

*1 都市型データセンターあり方検討会:2025年9月28日、データセンターの建設計画に抗議を続ける東京、千葉、埼玉3都県の住民や有識者が中心となって「都市型データセンターあり方検討会」が設立された。座長は一橋大学の寺西俊一名誉教授(環境経済学)。

*2 量子アニーリングの技術:日本において東工大などの研究が早くから進み、企業との連携も活発だったため、量子アニーリングでは世界に先行していた。一方アメリカは、より汎用的な量子ゲート方式の開発を国を挙げて推進し、幅広い量子アルゴリズムの研究で主導的な立場にある。

*3 SOC(システム・オン・ア・チップ):プロセッサコア、メモリ、各種入出力インターフェースなどの機能を一つの半導体チップに集積した電子部品

*4 ジェンスン・フアン:1963年生まれ。台湾系アメリカ人の起業家。NVIDIAを共同設立し、社長兼CEOを務めている。

→第3回に続く