アート✕ゲーム✕社会問題で現実をクエストする アーティスト・藤嶋咲子氏に聞く
第1回 静かな声をあつめる作品づくり

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

研究学園都市で育まれた美術と科学の感性、ゲームへの没入、ライフステージの変化――アーティスト藤嶋氏の作品は、個人の経験をバックグラウンドに、テクノロジーと社会の接触面の変化を映し出す。絵画、工場、群衆――言葉を持たない主体の声を、氏のアートはどう映し出すのか。

2026年1月9日 シビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT]ラボにて

 

藤嶋 咲子(ふじしま さきこ)

アーティスト。アート×ゲーム×社会問題をテーマに活動。2次元と3次元、フィジカルとデジタルが混じり合う領域で作品を展開。AIを活用した《デジタル・ペルソナ-二つの声》では、異なる思想を持つAIキャラクターを通じ、観客の思想や感情の揺らぎを引き出す実験を行う。インターネットを活用して多様な声を可視化する「バーチャルデモ」や、ジェンダーや社会構造を問い直すRPG「WRONG HERO」など、多彩なプロジェクトを手掛けている。最新作は「コエノクエスト —都市に残されたセーブデータ」。同プロジェクト内「Re: Play」が、2026年3月に開催される。

 

目次

絵画とゲームに魅せられた学生時代

ライフステージの変化と創作環境の変化のなかで

バーチャルなデモで社会と連携する

 

 

絵画とゲームに魅せられた学生時代

都築 正明(IT批評編集部、以下――)藤嶋さんは、どちらのご出身でしょう。

藤嶋咲子氏(以下、藤嶋)茨城県つくば市です。彫刻家で美術教師だった父と、臨床心理士の母のもとで育ちました。両親の影響を受けて、絵を描くことが好きで育ちました。同時に、研究学園都市であるつくば市の影響を受けて、サイエンスにも関心を持っていました。さまざまな研究機関や企業、文化施設などを見学する「つくばちびっ子博士」というイベントに参加したりもしていました。

――ずっとつくば市で育たれたのでしょうか。

藤嶋 小中学校や高校だけでなく、大学や大学院まで、ずっとつくば市でした。

――高校は美術専修だったのでしょうか。

藤嶋 高校は普通科で、美術部に所属していました。私の通っていた高校の美術部はF40号サイズの油絵を年に何枚も描くようなところで、本格的に絵を描くことを学ぶことができました。放課後に補講として石膏デッサンを教えてもらう時間もありました。幼少期から絵を描いてきた人たちにありがちなのですが、自分は絵が上手で、自分の絵がとても魅力的だと思い込んでいたところ、客観的な自分のレベルを自覚することもできました。

――美術のほかに熱中していたことはありますか。

藤嶋 ゲームが大好きでした。小学校1年生のときに誕生日プレゼントでスーパーファミコンを買ってもらい「ぷよぷよ 2」などをプレイしていました。たくさんの種類をプレイするというより、1つのゲームに没入して何十時間も続けるタイプのゲーマーでした。大学受験期にはちょっと生活に支障をきたすほどゲームにのめり込んでいましたから、ゲームをとるか美術を学んで大学に進学するかという二択を自分に課して、ゲームは一切しないことにしました。

――ゲームも中毒性がありますね。Tetrisをプレイしているとビルの隙間にブロックが落ちてくる気がしたり、「ぷよぷよ」を長時間プレイしていると同じ体型の方がすれ違うのをみて「消えるかな」と思ったり……。

藤嶋 わかります。ですからゲーム機もしまい込んでから今まで、自分が楽しむためのゲームは数えるほどしかしていません。

――そこから美術に正対されたわけですね。

藤嶋 総合大学というところに魅力を感じ筑波大学に進学しました。学部のはじめのころは、自由な表現をするためのトレーニングとして、裸婦や静物のデッサンなどをする時間が多かったですね。一方で、西洋美術史などのアカデミックな勉強もしていました。

 

ライフステージの変化と創作環境の変化のなかで

――卒業制作では、どのようなものを描かれたのでしょう。

藤嶋 卒業制作は、300号全面に工場の絵を描いた作品を制作しました。

――既存の工場を描いて、そこに着彩されたのでしょうか。それとも絵のなかに空想上の工場を建てていくことに近いのでしょうか。

藤嶋 その中間です。既存の工場のモチーフを参考にしながらも、オリジナルの空間を構成していくことをしていました。特徴としては、アカデミックに学んだ1点透視で視線誘導を用いない、ジャクソン・ポロックで有名なオール・オーヴァーに近いような手法で描きました。画面の外にも絵画世界が広がっていて、300号の中にそのイメージを切り取った作品です。

――その後1年間留学をされていますが、どのようなことを学ばれましたか。

藤嶋 1年間、スウェーデンのストックホルムに留学をしました。制作においてはひきつづき工場のパイプなどをモチーフにしていました。しかし「キャンバスの外を意識しては」という同じ研究室の仲間からの言葉を受け、絵画を使ったインスタレーション作品などの表現に挑戦していました。留学先では、ただ絵を描くだけではなく、作家として自作の説明をしたり、作品以上に作家自身をみられたりする経験を通じて、日本との文化差を肌で感じました。

――帰国されてから筑波の大学院に進まれたのですよね。「Plants Romance」から「Entering Factory」にかけて、工場のなかに人間が登場するようになります。また昨年刊行された『テクノ封建制:デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』(ヤニス・バルファキス著/関美和訳/集英社)の装画にもなっている「工場人間」では、工場と人間とが溶け合っています。こうした変遷には、どのような制作背景があったのでしょう。

藤嶋 「Plants Romance」は、大学院1年生のときの展覧会です。この時点では、各作品、人そのものは描いておらず、一部に人らしきものがいる程度の抽象度で描いています。一方、書影で使っていただいた“工場人間”は、2018年に東京に出てきて、翌年2019年に1人目のこどもを出産して以降の作品です。またコロナウイルスの緊急事態宣言に入ったのが2020年のことでした。生活環境が大きく変化したとともに幼い子どももいて、以前のように大きな絵を描くことはできないという制約がありました。そうしたなかで、工場と人とが混ざっている作品を描きました。

 

 

『テクノ封建制』(集英社)表紙カバー

 

バーチャルなデモで社会と連携する

――作品のなかに人が登場するようになったことには、人間観や生命観の変化もあったのでしょうか。

藤嶋 同時期にSNS上で「バーチャルデモ」という実験表現を展開しました。それが大きな転機で、作家として影響を受けるレベルでなく、自分の人生のうちに同じ衝撃は二度とは起きないだろうというほど芯に触れる体験になりました。そもそもは「#検察庁法改正案の強行採決に反対します」というハッシュタグが盛り上がったことがきっかけです。

――当時の東京高検検事長の定年延長を閣議決定して、それを追認するように法改正が行われた事案ですね。検察の政治からの独立性が問われたこともありますし、当時は「森友学園問題」「加計学園問題」「桜を見る会」などの政治汚職問題を抱えていた安倍首相に忖度して検察が起訴を見送ったともいわれていました。また「# Me Too」や「# BLM」などのハッシュタグデモが盛り上がった時期でもありました。

藤嶋 1回目のコロナウイルス緊急事態宣言の最中のことでした。社会や政治になにかを言いたい人がたくさんいるのに、外にも出られずリアルに発言できないことを実感しました。表参道に出向いても、人がだれも歩いていない光景をみて異様に感じました。一方で、スマホを見れば、タイムラインがハッシュタグデモで溢れている。そこで、これだけ発言したいことがあるのなら、仮想空間上に国会議事堂を立ててデモをするのはどうかと思い至りました。着想から3日後にそれを発信しました。1リツイートすると1人としてカウントして、バーチャルな国会議事堂の前にいるアバターがプラスされるという設定です。

――スクリプトを書かれたということでしょうか。

藤嶋 手作業でした。絵を描く状況ではなくなって3Dモデリングをはじめたころで、まだ開発技術も身につけていなかったのです。

――2011年の東日本大震災のころのデモや、2015年に安全保障関連法が審議されていたときの官邸前デモなどがありましたが、コロナ禍でフィジカルなデモができない状況でした。

藤嶋 私自身は、デモに参加したことがありません。自分が行きたいのに行けないというモチベーションからではなく、あくまでSNSの様子を客観的にみて、この場を提供してみたらどうなるだろうということが制作のモチベーションになりました。意見が1箇所に集まって、その様子がリアルタイムに変わっていく。それがテキストや数字という情報ではなく、人間が増えていくビジュアルでそれが表現されて熱量が伝われば面白いと思いました。はじめての試みだったので、数十人から数百人ぐらいが集まればよいと思ったのですが、スマートフォンの通知が鳴り止まなくなり、すぐに4万人ほどの数が集まりました。犬や猫、また突飛なことをした動画がバズるのとは異なり、言いたいことのある人がこれだけたくさんいて、一気に声を上げたということが衝撃でした。人生で一度も東京に行ったことのない方からの「国会議事堂に行った気になった」というメッセージや、介護中の方から「ようやく声を上げられた気持ちになれた」というメッセージをもらったりもしました。社会生活を送るうえで、日常のなかで政治的なことを口にしづらいと思っている方も多いと思います。そうした方々の声をオンライン上で可視化したことで、私自身が声なき声の大きさに圧倒されました。

――2011年東日本大震災に端を発した「金曜官邸前抗議」のデモは大規模なものとなりましたが、それでも「実際の参加者は主催者発表よりも少ないだろう」「こうしたデモに参加できるのは暇な人だけだ」といった声が聞かれました。しかし、実際に声を上げる人がすべてスクリーン上に映し出されると、説得力があると思います。

藤嶋 制作時には、反対の声を上げる群衆の姿がメディアを通じて放映されれば、現実のデモと同様の効果をもたらすのではないかと考えていました。特にこちらからメディアへ働きかけることはしませんでしたが、SNSでの発信をきっかけに、国内の情報番組だけでなく、中東・北アフリカ・トルコ地域を対象とした国際的なニュースメディアでも取り上げられるなど、当初の意図を超えた広がりを見せました。

声を発するという人間の熱量を、バーチャルでも伝えることができるという実感を得ることができました。また、オンラインであれば場所や状況を超えて人々の声を1か所に集めることができるという可能性も感じました。私自身、当時は1歳前後の一番目が離せない頃の子どもを背負いながらパソコンに向かっていました。産後というのは外出もままならず、社会と繋がらない孤立した状況でもあります。子どもといっしょにいるといっても言葉を交わすことはできませんし、パートナーとは話しますが、それでも1人とのコミュニケーションに限られてしまいます。そうしたなかで、見えない人々と一気に繋がるという経験をしたことは、二度と味わうことがないほどの衝撃でした。

第2回につづく

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トーク&ワークショップ「『小さなコエ』をプレイする ──効率化の都市を、あそびがハック」

開催日時:202637日(土)19:0021:30(開場18:45〜)

会場:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT3F

定員:ワークショップ&トーク:12名、トークのみ:13

参加費:無料

事前申込:要申込 申込者多数の場合は抽選

申込受付期間:受付中〜31日(日)

トーク登壇者:藤嶋咲子(アーティスト)、堀潤(ジャーナリスト、キャスター)、吉田寛(東京大学 教授)
ワークショップ講師:藤嶋咲子(アーティスト)

関連URLhttps://ccbt.rekibun.or.jp/events/fujishima-talk