アクセンチュア マネジング・ディレクター 巽直樹氏に聞く
第4回 ドイツとアメリカ、エネルギー政策から見えた「常識の革命」
ドイツの「エネルギー転換」の失敗はどこに原因があったのか。日本が直面する課題と共通する問題点を指摘してもらった。そのうえでトランプ政権のエネルギー政策はどのような点で「常識の革命」だったのか、その評価を聞いた。世論を味方にできそうなだけのナイーブな理想論を突き抜けたリアリスティックな政策をどう見るべきか。

巽 直樹(たつみ なおき)
アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター
中央大学法学部卒、東北大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経営学)。東洋(現三菱UFG)信託銀行、東北電力、インソース執行役員、新日本(現EY新日本)監査法人エグゼクティブディレクター、KPMGコンサルティング プリンシパルなどを経て、現職。この間、学習院大学経済学部特別客員教授などを歴任。著書は『まるわかり電力デジタル革命 EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの“新しい日常”への挑戦』(日本経済新聞出版)、『ローカルグリーントランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム)など多数。国際公共経済学会理事、立命館大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)客員教授なども務める。
目次
ドイツのエネルギー政策はなぜ失敗したのか
IT批評編集長・桐原永叔(以下、──)日本と同様にエネルギーコストが高いドイツは「脱原発」を掲げましたが、うまく行っているようには見えません。
巽 直樹氏(以下、巽) ドイツのエネルギー政策である「Energiewende(エネルギー転換)」は、脱原発と再生可能エネルギーへの移行を両立させようとする野心的な試みでしたが、いくつかの要因により「失敗」あるいは「課題を抱えている」と評価されています。なお、「野心的な」という表現はドイツに限らず気候変動対策でも度々使用されますが、個人的には「無謀な」と、心の中で常に読み替えています。「失敗」には大きく分けて4つの要因があると見ています。
まず、「ベースロード電源の不安定化と価格高騰」です。ドイツは福島第一原発事故を受けて脱原発を加速し、2023年4月にすべての原子力発電を停止しましたが、太陽光、風力などの再生可能エネルギーは天候に左右され、安定供給に欠けます。結果として、石炭火力や天然ガス火力発電を待機電源として常に頼る必要がありました。特に、ロシアからの安価な天然ガスに依存する国家戦略は、ロシアによるウクライナ侵攻により崩壊し、天然ガスの供給減少と価格高騰に直面しました。これにより、ドイツの電力料金は欧州主要国の中で最高水準となって企業の競争力を大きく損ない、産業の海外移転、空洞化につながりました。
次に挙げられるのは、「送電網の整備遅れ」です。風力発電の適地はドイツ北部、太陽光発電の適地は南部というように、再生可能エネルギーの発電拠点が偏在しているにもかかわらず、大消費地へ電力を送るための送電網の整備が遅れています。これは、景観問題、電磁波の懸念といった住民の反対や、送電網建設にかかる費用負担、地域間の格差是正の難しさなどが原因とされています。
3つ目の要因は「高額な賦課金と国民負担の増大」です。再生可能エネルギーの導入を促進するため、FIT(固定価格買取制度)が導入されましたが、これにより電力会社が買い取った再生可能エネルギー費用は、電気料金に上乗せされる「再生可能エネルギー賦課金」として消費者が負担しています。賦課金は廃止されましたが、過去のFIT契約は継続されており、新規の設備についてはFIP(フィードインプレミアム)制度が主流になっています。そして、その財源は排出量取引収益などを原資とする政府予算へ移行しています。とはいえ、国民負担の重さは長期的に尾を引いています。
最後に「石炭火力発電からの脱却の遅れ」です。脱原発を進める一方で、再生可能エネルギーの供給不安定性を補うために、石炭火力発電の依存度が依然として高い状況が続いており、目標としていることと矛盾しています。石炭火力は温室効果ガス排出量が多く、脱炭素目標の達成を難しくしています。また、石炭産業の保護や炭鉱労働者の雇用問題も複雑な課題となっています。
ドイツの状況は日本にとっても他人事ではないですし、エネルギー政策失敗回避のためのヒントがあるとも言えますね。
トランプが連発した“エネ関連の大統領令”が意味するもの
ドイツとは対照的にアメリカではトランプ大統領が就任後に矢継ぎ早にエネルギー関連の規制を撤廃する大統領令を発令して、注目していました。
巽 トランプ大統領就任後の大統領令を時系列で表にしてまとめました。
時系列でのトランプ大統領就任後の大統領令
方向性は一貫しています。大幅な規制・補助金などの撤廃であり、前大統領であるバイデンが講じた環境政策を一掃し、国家エネルギーの非常事態宣言とパリ協定離脱が大きな話題となりました。さらに、化石燃料・鉱物資源開発への重点的推進や州による気候・エネルギー規制への介入強化、核エネルギー再興への本格的取り組み、風力や太陽光といった再エネ補助金の廃止、さらには重要鉱物サプライチェーン強化といった現実的な国家資源戦略が並びます。
時代を逆戻りさせるものだと批判的に報道されていますが、巽さんはどう評価されてますか。
巽 トランプ大統領は、就任から14週間でのみずからの取り組みを「常識の革命」と言い放ちました。関税や外交問題などにおいては評価の分かれるところでしょうが、少なくともエネルギー政策については、そのように言われても個人的に違和感がありません。日本国内では「非常識」と揶揄される声も聞かれますが、多くはエネルギー問題に関する見識が十分ではない発信元によるものです。この「常識の革命」を批判的に眺めるのではなく、日本はこれを積極的に利用するくらいの胆力を持つべきだと考えています。