シンギュラリティの先へ──AIだけが見る、人類には見えない新しい次元
第4回 わたしたちの認識は宇宙に追いつけるか

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テキスト 桐原 永叔
IT批評編集長

SF映画『インターステラー』とリサ・ランドールの理論物理学は、わたしたちの認識を四次元の外へと誘う。重力が高次元を通じて働くという仮説は、現実そのものの捉え方を根底から揺るがす。もし人類が余剰次元を認識できる日が来れば、わたしたちの“今”の理解は大きく書き換わることになるだろう。

目次

リサ・ランドール理論の影響

SF映画をもう1本、紹介したい。クリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」だ。「インターステラー」は、環境破壊が壊滅的に進行し滅亡の危機に瀕する地球から、人類が新天地を求めて未知の惑星へ旅立つ物語だ。この映画でも、わたしたちがふつう認識する三次元空間と時間という四次元の認識を超え、五次元や高次元空間の存在をテーマにかかわるモチーフとして描いている。重力が高次元を通じて伝わることで、時空を超えたコミュニケーションが可能となる展開はドラマツゥルギーの鍵になる。ここでも時間は線形ではなく、非線形的なものとして扱われる。


この映画に大きな影響を与えたといわれるのが、アメリカの理論物理学者、リサ・ランドールの『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く』(向山信治監訳/塩原通緒訳/NHK出版)だ。空間三次元+時間一次元を超える次元(余剰次元)の可能性を論じ、わたしたちの宇宙のあり方を論じたものだ。内容は高度でとっつきにくいのだが、想像力を刺激する面白い本なのは間違いなく、この内容に刺激されて映画を一本、撮影するノーランの創造性にも納得するものがある。


簡単に要約はできないのだが、以下の一文を引用してみる。

ひも理論が正しければ、余剰次元は存在する。そして本当に存在するとすれば、余剰次元はコンパクト化か、局所集中(あるいは局所的な局所集中)か、またはその両方の組み合わせによって、私たちの目には見えないようになっている。

ワープする宇宙

自然界では「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」という4つ基本的な力が、宇宙のあらゆる現象や物質のふるまいを支配している。この力について解明することが、自然界の根本法則を解明するうえで不可欠だ。この4つの力をひとつの理論で記述しようとする「大統一理論(GUT)」や「超対称性理論」について、ランドールは普遍の物理法則を担保する対称性を、力を伝えるボース粒子と物質を構成するフェルミ粒子までもが対称性をもつとするレベルの超対称性理論まで証明されれば、物質のもっとも根本的な構成要素が一次元の「ひも」であり、あらゆる粒子はその振動から生まれているとする理論である超ひも理論をも証明されるという。ちなみに超ひも理論では10次元から11次元の世界が論じられる。


人類の認識の限界

ランドールの論じる四次元を超えた余剰次元はこの一次元の「ひも」のなかに折りたたまれている。


『ワープする宇宙』では、四次元を超えた高次元空間(バルク)のなかに、「ブレーン」と呼ばれる膜状の構造があり、わたしたちの宇宙はこのブレーン上に存在していると語られる。そして、階層性問題という4つの力のうちで異常に 弱い重力だけが高次元空間に漏れだし、私たちの三次元空間(ブレーン)で弱く観測される。重力は次元を超えて伝わる際に、湾曲(ワープ)するとのいうのがタイトルの由来だ。


非常に複雑で難解な宇宙観で、とてもわたしごときに解説できるものではないのだが、こうした最先端科学の認識がわたしたちの現在に対する認識を決定的に画するものであるのはまちがいなく、それゆえに直感的には理解しがたい。しかしこの余剰次元への認識をもし人類が獲得したならば、サピア=ウォーフ仮説のごとく、わたしたちの認識は現在とは隔絶したものに進化する可能性を感じている。


いや、わたしたちがまだ余剰次元を認識できていないように、もしかしたらAIがすでにシンギュラリティを超えているとしてもそれを認識できないという人類の認識の限界を論じていくほうが話としてわかりやすいだろうか。

インターステラー

クリストファー・ノーラン (監督)

マシュー・マコノヒー, アン・ハサウェイ (出演)

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ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く

リサ・ランドール (著)

ムコウヤマ シンジ, シオバラ ミチオ (写真)

向山 信治 (翻訳)

NHK出版

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