半導体エネルギー研究所顧問・菊地正典氏に聞く
第4回 日本の先端半導体挑戦に必要な条件とは

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

アメリカ政府の深謀遠慮と日本の認識不足

Intelとサムスンに関してはだいぶ寂しいニュースが増えてきています。地政学的な問題も含みつつ、世界規模での業界再編の時期に来ているのかなという印象を持ちます。

菊地 アメリカはミッシングピースとして半導体の製造能力を国内に増やしたいという考えもありますが、本当は盟主としてIntelを育てたい思いがあるはずです。IBMがラビダスに声をかけたというのはある意味で保険だと思います。Intelの最先端技術開発がうまくいかないで、ラビダスがうまくいったら、あれは自分たちが提供した技術だからということができる。

なるほど。IBMで技術者を育成し直しているとか言っていますね。

菊地 アメリカ政府にはやはりそうした深謀遠慮が働いているんですよ。

そういう意味では素晴らしい戦略ですね。どっちに転んでも最後は勝つという。

菊地 失敗しても痛くも痒くもない。ラピダスから何百人規模で、IBMが中心になっているアルバニーの研究開発に送り込んでいますが、それは日本が国として行っています。失敗しても損失はないし、成功すれば自分たちの手柄だから、また請求できるわけです。

TSMCもアメリカは国内に置いとくわけですから、政治の力がそうとう働いていますね。

菊地 日米半導体協定についても、そういうことを考える人が裏にいて長期的にどうやって立場を逆転させるかよく考えていたわけですよ。

今や半導体は国家戦略と密に関わる重要産業と認識されていますが、80年代はいかがだったのでしょうか。当時も「産業の米」とは言われていましたが。

菊地 結局、部品という見方でしかなかったってことですよね。

部品だから譲歩してもいいということですよね。

菊地 部品を海外から買ってきて、自分たちのテレビをうまくつくればいい、コンピュータをつくればいい程度にしか考えていませんでした。だけど、半導体のすごいところは、それ自身が部品であると同時にシステムなんです。システムになってくると、買ってきてできるものではないんですね。そこの理解は足りなかったと思います。

今でこそ、TSMCがつくった最先端半導体をXiaomi(中)が使っているなんて情報が出ると、大騒ぎするぐらい半導体が重要部品だという認識は、われわれは持っていますし政治家も持っていますが、当時はそこまでではなかったということですか。

菊地 「なんの仕事しているんですか」と聞かれて、「半導体です」って答えると、「テレビの部品つくっているんですか。地味な仕事ですね」なんて言われたものです。

そんな認識だったのですね。

菊地 2020年から始まった半導体不足で、一般の人々にも半導体が重要だという認識が広がりました。最重要物資だとか戦略物資だとか経済安全保障だとか言われていますけど、一般の国民のレベルにも知らしめてくれたというのは、いい機会だったと思います。

半導体がないと、ものができないということがわかったわけですね。

菊地 そういう意識が昔は少なかったですね。

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