半導体エネルギー研究所顧問・菊地正典氏に聞く
第3回 TSMCに学ぶビジネスモデル革新の必要性

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

TSMCが日本のために工場を出したわけではない

日本の企業が遅れをとったのは、すり合わせにこだわったことと、技術をオープンにできなかったことで、つまり思想として遅れていたということになるんですね。

菊地 日本人が陥りがちな罠があって、個人の真面目さとか勤勉さとか能力とか、そういうことに依存しすぎるんですね。もちろん優秀な技術者や作業者は必要なんだけど、プロジェクトが大きくなってくると、個人ではカバーしきれない。常に優秀な作業者がいるわけでもないしね。そういう人たちがいなくても、カバーできるように製造をシステム化していかないと限界があるような気がします。半導体だけじゃなくて、航空機やロケットの失敗を見るにつけ如実に現れている。

ラピダス2は割とそういう思想に近いですよね。優秀な人を集めてやるんだと。

菊地 ラビダスに関していえば、国としてもやらざるを得ないというのはよくわかるし、何かを始めるのに遅すぎることはないからいいんですけど。ラビダスは「Q-TATライン(クイック・ターンアランドタイム)」、ウエハーを投入してから完成したウエハーが出てくるまでの時間がクイックだからQ-TATラインと呼ぶのですが、それがコスト的にペイするのか疑問です。値段は高くてもいいので、とにかく早くつくってくれという注文に対応する戦術だと言われていますけど、スタートするのが2027年頃ですから、TSMCやサムソンも当然2ナノクラス3でラインをつくってるはずで、そのときに本当にコストパフォーマンスで競合できるかというと、どうなんでしょうか。

ラビタスが先端技術を追いかけることの重要性を言われる方と、熊本にTSMCの工場を誘致したみたいに量産型の技術をどんどん国内に根付かせることが大事だと言われる方と、二つの意見があるように見えます。

菊地 TSMCはもっと賢くて地政学的な台湾有事の心配もあるし、アメリカが自由主義圏内で半導体サプライチェーンを確保する必然性も理解しているから、TSMCにとってどういう振る舞いが最善の生き残り策なのか考えています。最先端技術は台湾国内に持っておく。みんなそれがなくなったら困るからおいそれとは手を出せない。だけど、リソースを無限に持っているわけではないから、最先端技術に集中するためにはリソースを分散するわけです。お客さんのなかには最先端ではなくて28ナノでいいっていうお客さんもいるわけで、そこにも供給しないといけないから、肩代わりしてくれる工場があればありがたい。それが熊本だったりするわけです。

日本では、熊本の工場が早く立ち上がって喜んでいますが。

菊地 単純だと思いますね。もちろんそれさえもやらないとダメなぐらい、日本が遅れをとっていることは確かです。だけど、TSMCが日本のために熊本に工場を出したわけではない。最先端の技術は台湾国内でやり、ちょっと遅れた技術はアメリカの工場でやり、もっと遅れた技術で収益性の良くないものは、出先の政府がお金を出してくれる、ヨーロッパや日本に任せるという戦略なんです。

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