半導体エネルギー研究所顧問・菊地正典氏に聞く
第3回 TSMCに学ぶビジネスモデル革新の必要性
TSMCの技術をオープンにすることによって顧客を囲い込む戦略
菊地 もう一つ大きな理由があります。半導体を設計するときに、ぜんぶ仕様を決めて、それをまとめて「PDK(プロセスデザインキット)」にする。日本の各社はPDKを極秘に扱って設計していました。ところが、TSMCなんか見て賢いなと思うのは、PDKをネットでオープンにしたことです。この基準で設計してくれれば、私たちがつくってあげますよとやったんですね。最初はみんな半信半疑ですよね。ところが、頼んでみて確かにいいものをつくってくれる。歩留まりもいい。コストパフォーマンスに優れているからどんどん注文が集まる。逆にPDKに則っていないものはつくれないと言って断るんですね。TSMCがうまくいったのは、技術をオープンにすることによってむしろ顧客の囲い込みができたことだと思います。
日本の企業からその発想はでてきにくそうですね。
菊地 オープンにすることによって、より多くの人に検討させて、フィードバックできる。「EDA(エレクトロニック・デザイン・オートメーション)」と呼ばれる電子設計の自動化を行う企業も同様の戦略をとっています。Synopsys(米)とかCadence Design Systems(米)とかSIEMENS EDA(ドイツ)がそうですね。完全なコア技術は公開しないけれど、設計のツールやソフトをある程度オープンにして、それを使わせることでフィードバックをどんどん得られるようになる。それが業界標準になっていって、より多くの人に使われるし、より洗練されていく。オープンにすることで囲い込むという非常に巧妙な戦術です。
そのPDKも、ある一定のクオリティ以上にしか耐えられないようにしておけば、そこでクオリティのコントロールができるというわけですね。今のお話を聞いて、ゲーム業界でアタリ社がオープンにしすぎて粗製濫造に歯止めが効かなくなってアタリショックを招いた反省として、ファブレス企業でもある任天堂はオープンにはするけど、ある一定の制限をつけていたことを思い出しました。
菊地 ほんとのコアの部分はオープンしないですよね。たとえばEDAでも設計のコアの部分は、それを使っているメーカーにもぜったい教えてくれません。だけど、ツールとして使う分にはナレッジを与えている。そこはうまい。