NTTテクノクロス・大野 健彦氏に聞く
第1回 現場の暗黙知を引き出す「技能抽出」の手法とは

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聞き手 桐原 永叔
IT批評編集長

「参加型デザイン」の手法を取り入れ「技能抽出」に活かす

桐原 団塊世代の引退のタイミングで、いわゆる「2007年問題」として技能継承は社会的にも問題になりました。

大野 技能継承に組織で取り組むぞと本社は旗を振ったわけなんですけれど、そもそも技能を継承するノウハウは確立されているわけではないので、どうすれば技能を継承できるのかという、根本的で非常に難しい問題に突き当たりました。そもそも技能は抽出できるものなのかというところからスタートしました。2011年にこの研究を立ち上げたのですが、数年間うまくいかなくて、これはもうダメかなと思っていました。

桐原 前例のない研究だったわけですね。

大野 その当時に参加型デザインという別の研究にも取り組んでいました。参加型デザインとは、北欧の人たちが社会システムやITシステムをつくりだす際の基本的な考え方です。北欧がデザインに強いとか電子政府システムがよくできているという話をご存知かと思います。1960年代から、いわゆるITの先駆けのようなシステムが企業に入りはじめたときに、このままだと自分たちは仕事がなくなるという危機感から労働者のあいだで社会運動が起きました。それに対して、ITシステムのあり方を労働者や経営層が一緒に考えましょうというような取り組みが始まったのが、参加型デザインの始まりです。その考え方は今でもずっと続いています。日本はなんとなく、ITシステムは情報システム部門がつくるものと考えがちですが、そうではなくて、使う人も経営層も、もちろんシステムをつくる人も、みんなが協力しながらつくりだすという方法が北欧には連綿とあるんですね。

桐原 ヨーロッパは市民参加型のデジタル化が進んでいる印象をもちます。そういう背景があるのですね。

大野 北欧の電子政府システムがものすごくよくできているひとつの理由は、国民がそのデザインのプロセスに参加することで、国民のニーズを国側がしっかり踏まえてつくることができているからです。技能継承に、この「参加型デザイン」の手法を取り入れることができないかと考えました。ワークショップに現場の人たちを集めてきて、その人たちの知恵や意見を聞くというやり方です。そこには技能を受け継ぐ若い人にも参加してもらって、上下関係をあえて壊してフラットな関係のなかで若い人からどんどんベテランに質問してもらう。2014年ぐらいにその手法を思いついて、やってみると非常にうまくいきました。これまではベテランの技能を取り出すのが非常に難しかったんですけど、ベテランの頭に外部から適切な刺激を与えて、ベテランにいま働いている気持ちで考えていただいて、断片的に知識を出していくとどうもうまく技能が取り出せるらしいということに気が付いたのが、大体今から10年ぐらい前です。

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