ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第1回 AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み
ノーベル物理学賞の選考への疑問
なぜ日本の研究者が果たした役割は評価されなかったのか
さて、ヒントンとホップフィールドの受賞発表があった10月8日から、1週間後、こんなニュース記事がでた。
「本来なら日本の甘利俊一・福島邦彦両氏が受賞すべき今年のノーベル物理学賞」(JBpress 2024.10.14)だ。
この記事では、2024年のノーベル物理学賞の選考に疑問を投げかけ、日本の甘利俊一氏と福島邦彦氏の貢献が適切に評価されなかったことを批判する。特に、彼らの研究がディープラーニングやニューラルネットワークの基礎を築いたにもかかわらず、カナダとアメリカの研究者であるヒントンとホップフィールドが受賞した点を疑問視し、日本の研究者が果たした役割への再評価が必要だと論じている。
このお二人のニューラルネットワーク、ディープラーニングへの業績は以前から言われてきたし、わたしもハードウェアの進化を語る際には、基礎理論となるコンセプトははるか以前に確立しながらコンピューティングパワーが不足してAIの進化には時間を要したと書くことが多い。基礎理論となるコンセプトとはつまり、数理工学者・甘利俊一氏のニューラルネットワーク理論と情報幾何学であり、計算機科学者・福島邦彦氏の深層畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)の原型である「ネオコグニトロン」である。
甘利氏が1967年に発表した多層パーセプトロンの確率的勾配降下法の定式化などは、1986年、ヒントンらが編みだした誤差逆伝播法と密接な関係がある。
わたしが「コンピューティングパワーが不足」というのはどちらかといえば、この1980年代後期の誤差逆伝播法からディープラーニングへの進化の過程に挟まっている長い冬の時代の原因としてであるが、その根本にはそれよりさらに20年も遡る甘利氏の発見があったのだ。もしこのときに十分に計算力(コンピューティングパワー)があれば、ヒントンの登場もなく冬の時代を経ることもなくAIは現在の状態に近いものになっていたかもしれない。
これは推測でしかないが、今回のノーベル物理学賞の受賞者の決定に際しては、選考のなかで甘利氏、福島氏の名は挙がったはずだ。そして、この二人であればAIの進化に貢献した物理学的な領域での貢献としても、さほど違和感がなかったのではないだろうか。