ノーベル賞とテクノロジーの経済を巡る省察 第1回 AI、情報科学、そして「ユートピア」への緩慢な歩み
ノーベル物理学賞の選考への疑問
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2024.11.11
テキスト
桐原 永叔
IT批評編集長
匂ってくるノーベル財団の政治性
今年のノーベル賞についてはさまざまな論点で語ることが可能だ。もちろん、ノーベル賞ともなればつねにさまざまな論点で語ることはできるのだが、この記事でふれておきたい論点が今年については多くあるのだ。
ジェフリー・ヒントンがジョン・ホップフィールドとともにニューラルネットワークの基礎理論を確立してディープラーニングの発展に貢献したとしてノーベル物理学賞を受賞したとの一報が入ったとき、多くの人がまっさきに思ったのが、これは物理学なのだろうかということだ。過去にもトランジスタを発明したウィリアム・ショックレーや、青色発光ダイオードを発明した名古屋大学の赤﨑勇、天野浩の両氏と中村修二氏といった、工学的なテクノロジーの功績に対してノーベル物理学賞が与えられているが、トランジスタも青色発光ダイオードも量子力学をもとにしており明確に物理学領域の功績であることに間違いはない。
それに対し、ジョン・ホップフィールドが物理学者であるのは言を俟たないとしても、ジェフリー・ヒントンについては情報科学者とするのがふつうである。わたしなどは、この点にノーベル財団の政治性を感じてしまう。それは、ヒントンがグーグルを辞めAIの脅威を口にしたことが、これまでのリベラルな傾向にも合致するように思うからだ。
翌日に化学賞を受賞したハサビスに関しては、グーグル在籍であってもAIモデル「アルファフォールド2」によってタンパク質の構造を予測するという、人類の公共福祉に大きな貢献のある内容だった点でいえば、ノーベル化学賞に違和感はない。