東京大学大学院准教授 馬場雪乃氏に聞く
(2) AIを介してアップデートするコミュニケーション

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聞き手 都築 正明
IT批評編集部

少数派の価値ある意見を生かした議論をみちびくAI

価値交換工学の研究で高校生を対象にされた実証実験が興味深かったです。

馬場 高校1年生のクラスで行った実験です。クラス全体の困りごととして、みんなでプレゼンしたりレポートを作成したりするグループワークに、積極的に取り組まない人がいるということが挙げられたので、その解決策を話し合ってもらいました。そこではクラスを半分に分けて、一方は生徒だけで、他方はAIを交えて話し合ってもらいました。生徒だけで話し合うと、熱心に取り組む人たちのほうが意見が出しやすく、いかに取り組まない人を課題に取り組ませるかという“上から目線”の議論になり、取り組まない人が口を出せる雰囲気ではなくなってしまいました。話し合いの結果も、取り組まない人に課題を割り当てて、逃げられないような役割分担にしたり、その人が課題をしなければ全員が困る状況をつくってしまうような結論に至りました。これは課題に積極的に取り組む人にとって都合のよい結論ですよね。

AIを交えて話し合うにあたっては、AIはどのような役割を担ったのでしょう。

馬場 私たちの開発したアプリを用いて、事前にクラスの生徒たちから意見を集めました。このアプリは、集まった意見を自動で整理して、大分類・中分類というようにカテゴライズします。生徒たちの議論にあたっては、この分類をもとに話し合ってもらいました。

その結果、話し合いのプロセスや結論には大きな変化はあったのでしょうか。

馬場 話の流れをつくるうえでは、コミュニケーションという項目がカテゴリーに上がってきたのが大きかったです。まずコミュニケーションが議題になり得ることが共有されましたし、課題に取り組まない人にも理由があるという観点に立った議論にもなりました。ツールをつかったことで、取り組まない人は嫌だからしないのではなくて自信がないからしない、というような声も発見されるようになり、分断があるのはコミュニケーションの問題だということが論点化されて、問題を解決するためには、なんでも言い合えることが大切だという議論に発展しました。AIを交えたグループの結論は、グループ内できちんと言いたいことを言える環境をつくり、発言内容とその人とをしっかり切り離すことが必要だというものでした。高校1年生がそこにたどりついてくれたことに、感動しましたよ。

双方の立場を尊重して上位の結論を導き出す、理想的な議論ですね。

馬場 挙がってきた意見にも“心理的安全性”という言葉がつかわれていたりして驚きました。

それまで発言できなかった生徒も、自分の認知をメタ化できているわけですね。

桐原 顔色をみて話せない人に意見を求めたり、意見だけ聞く場を設けたりというのは、優秀なファシリテーターがするようなことですね。

馬場 こうした話し合いで高校生がファシリテーターを務めると、順番に話を聞いていくことは難しいですよね。ファシリテーターを担当する高校生自身の思惑も入ってしまうと思いますし。客観的にファシリテートするのはかなり難しいスキルですから、そこをAIが助けてあげたといえます。

教師がファシリテートをしてしまうとまた難しいですよね。

馬場 教師にも思惑があるでしょうし、素直な意見が出づらくなって、教師に気に入られる意見が優先されそうな気がします。

高校生に限らず、企業でブレインストーミングが成立しないことも多くあります。みんなが上司の気に入りそうな意見を言いがちだという。

馬場 最終的には責任者が決めるので仕方がないところもありますが、多様な意見を募る意味では、もったいないですね。

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