情報戦略は私たちを誘引する
戦争と政治における心理

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テキスト 都築 正明
IT批評編集部

マイ・フェア・レディは機械仕掛け

世界で開発される“忠実で賢い”兵器

火力兵器が遠隔化したように、AI兵器は戦闘の心理的負担を軽減するように擬制する。

2020年、アメリカ空軍は自軍のエースパイロットとAIとが仮想空間上で空中戦を行う映像を公開した。5回の疑似演習を行い、結果はAIが全勝。高度かつ長期間の訓練を要するパイロットの経験を、膨大な学習データに基づくAIのシミュレーションが凌駕することを明らかにした。
その後、実機を用いた演習も陸続と行われている。2021年12月には、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で、F16戦闘機をAIが操縦するよう改造したテスト機の飛行を行った。数日間にわたって出撃を想定した離着陸や武器の使用を試したという。2023年には、アメリカ空軍研究所(AFRL)がステルス無人戦闘機「XQ-58Aヴァルキリー」が、人工知能を用いた飛行に成功したことを明らかにした。
同機に搭載されたコンピュータシステムは機械学習で訓練されたAIアルゴリズムにより、指令に従う最適な飛行経路とスロットルの設定を決定するという。

有人機の指揮下で戦闘を行う半自律型の無人戦闘機はロイヤル・ウイングマン(Royal Wingman:忠実な編隊僚機)と称され、アメリカだけでなくオーストラリアやイギリスでも開発が進められている。
また日本の自衛隊も、新型ステルス戦闘機の開発とともに、ロイヤル・ウイングマン型の無人機の開発を進めており、アメリカと協力を進めることに合意している。

AI兵器開発は権威主義国家においても進められている。2023年3月には、中国航空力学研究開発センター(China Aerodynamics Research and Development Centre)の研究者が同年2月にAI機と人有人機が実戦を想定した格闘戦を行い、AI機が勝利したという論文が中国航空学会誌「Acta Aeronautica et Astronautica Sinica(航空学報)」に発表された。
中国ではAIの軍事利用についての論文が数多く提出されているほか、2018年より北京技術研究所が優秀な高校卒業生をリクルートし、AI兵器開発に携わるBIT(Beijing Institute of Technology)プログラムを実施するなど、AI兵器の開発に前向きな姿勢をみせている。
ロシアのプーチン大統領は2017年、同国教育機関の新学期スタートに寄せた講演で「AIを制する者が世界を制する」と発言し、研究支援や人材育成などを進めている。

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