オズールジャパン代表 楡木祥子氏に聞く
(2)障がい者の幸福をはこぶハイテク義肢
新しいメディア環境がひろげるもの
学校教育では松葉杖や車椅子の体験はしますが、こうした義肢を体験する機会はまだ少ないかと思います。山田千紘さんは電車で寝過ごした終点駅で電車に轢かれて3肢を切断しましたが、電車を乗り過ごした経験のある人は多いですし、車に轢かれる可能性だってありますから、自分も同じことになるかもしれないという想像力を持つことで、障がいを持つ方への偏見もなくなると思うのですが。
楡木 体験用の義足もありますから、それをつかって歩いてみたりということはしています。2020東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まってからは、東京都教育委員会が義肢装具士協会といっしょに小中学校で体験教室を開催したり、義足のパラアスリートを呼んでパラスポーツを体験したりという機会を積極的に設けたりして、認知度は高まっていると思います。また当社でもスポーツ義足について大学などで講義をしたりしています。講演会や体験会などの依頼も多いですが、いまはYoutubeやTikTokの反響が大きいですね。Youtubeでは山田千紘さんの下着姿からスーツを着てネクタイを締める動画(https://www.youtube.com/watch?v=Hp1kU1dku8g)が、TikTokではモデルの川原渓青さんが当社で義足をつくった動画がバズりました。
障がいを持つ方からのメッセージとしては乙武洋匡さんの『五体不満足』が460万部売れていますが、チャンネル登録者数23万人で動画投稿数240本というのは、それを上回る訴求力があるかもしれませんね。
楡木 乙武さんは先駆者で頭もよく、さまざまなオピニオンを発することができる方だと思います。一方、自分の身にひきつけるという意味では、山田千紘さんのモーニングルーティンなどを紹介するほうが身近に感じられると思います。キャラクターとしても、近所にいる元気なお兄ちゃんという感じですし。
富士山登頂の動画では、順調に進んでいって休憩をしているときに、義手を外してみるとすごく汗が溜まっていたシーンがありました。素人考えですが、その辺りのフィードバックができると、より快適だろうと感じました。
楡木 義肢と汗というのは永遠のテーマでもあります。富士山登頂の際の義足は最先端の技術を用いた製品で、汗を溜め込まないようにつくられています。義手は切断面と接する面積も小さいので、今後のテーマになってきます。
義足をつけることで、幻肢痛がなくなったりもするのでしょうか。
楡木 そこがまだわかっていないのです。幻肢痛は、脚を切断した方よりも手を切断した方のほうが痛みが激しいといわれています。おそらく、手を司るもののほうが、脳に占める神経の数が多いからだと思います。手については、義手とイメージが繋がると幻肢痛が減るともいわれています。
脳科学で、幻肢痛を抱える片手のない方に、鏡でもう片方の手を見せたら治癒したという事例が昔から語られています。
楡木 鏡療法でうまくいかなった人が、VRを用い成果を得ているケースがあります。いまはまだ保険適用の対象にはなっていませんが、手の幻肢痛に悩む方が自費でVR治療を受けて症状が軽減した例も聞くようになりました。夜も眠りやすくなりますし、薬の投与量も減ります。そこにフィジカルに義手をつければ、違和感というのはもっと減らせそうです。VRはリハビリでも目覚ましい効果を上げています。
義肢は、先天性の方と後天性の方とで、装着する割合が異なるのでしょうか。
楡木 義足はほとんどの方が装着します。先天的に脚がなくて、もとのイメージがない方も装着して訓練して、ものにします。手については当人のアイデンティティとも密接に関わっているので、つけるかつけないかを選択することも多いです。年齢にもよりますね。子どものころは親に言われてつけていても、思春期になってアイデンティティ受け入れの葛藤が生じる年齢で外してしまうこともあります。欧米であれば、中学生や高校生のころに、最先端の義肢をつけて訓練することが一般的です。一方、日本ではまだ先端の義肢が障害者総合支援法で認可されることがかなり難しいのが現状です。いまは以前より認可件数が増えてきていますから、需要に応える兆しはみえてきました。トレーニングで筋電を伝えるコツさえつかめれば、だれでも使えますから、現在は承認されるかどうかというハードルのほうがずっと高い状況です。なにが日常生活であるかという基準についても、寛容な心で認めてほしいと思います。
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