ロボティクスが支える肉体労働の未来
第1回 最新のAI技術で大きく変わるロボットの姿

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寄稿者 吉田メグミ
フリーライター。パソコン誌などの紙媒体、企業オウンドメディアや WEB マガジンなどの WEB 媒体での記事作成を広く手がける。Autodesk Design&Make編集・執筆・海外記事のローカライズ担当。ココカラ編集室代表。

少子高齢化と学歴の底上げ傾向が続く日本で、肉体労働を担う若年労働者の急激な減少は、今や待ったなしの状況となっている。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位[死亡中位]推計)によると、2030年の総人口は1億1,662万人。総務省が発表した2023年「人口統計」から予測すると、その人口を支える2030年時点の22歳から40歳までの労働者人口は約850〜900万人と推定される。いかに少ない人数で労働作業を効率化にこなすか……未来の肉体労働はロボットと人間の協働にかかっている。

目次

学習していない環境でも対応できる「世界モデル」を応用したロボット

すでに数多くの肉体労働の現場に導入されているさまざまな産業ロボット。そこに革命を起こしつつあるのが、2023年にNECが発表した「世界モデル」という概念を応用したロボットだ。従来の産業ロボットは、特定の作業を遂行するためにヒトが細かい動きやセンサーによる状況判断をプログラムする必要があった。そのため、作業内容が変化したり、物品が異なったりするたびに再プログラムが求められ、作業の柔軟性を欠いたり、高度な作業の自動化が困難であった。しかし、NECが発表した新しい技術は、この課題を解決する可能性を秘めている。

「世界モデル」とは、「外界から得られる観測情報に基づき、外界の構造を学習によって獲得するモデル」だ。AIに学習させたデータの集約だけでなく、実世界の「構造」を理解させる技術だ。これを応用することで、ロボットに実世界の構造や動作の結果を予測・推定させる。例えば、物体が壁の陰に隠れている場合、その背後に何かが存在している可能性をAIが予測することができる。これは、ロボットの動作をより的確にするための鍵となる。私たち人間は普段、意識せずにこのような予測や推論を行いながら行動している。例えば、物を持つ際には重さやバランスを無意識に感じ取って動かすことができるが、このような「無意識的な常識」や予測のプロセスをロボットに取り入れることが、この技術の特徴である。NECでは、この予測能力をロボットに導入し、学習していない未知の環境でも柔軟に対応できるようにすることを目指している。

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