オズールジャパン代表 楡木祥子氏に聞く
(1)テクノロジーが福祉にもたらすもの
ジェンダー・ギャップ指数14年連続1位のアイスランドという国
オズール本社のあるアイスランドは、ジェンダー・ギャップ指数が14年連続で1位です。日本は同指数125位と男女差が著しいのですが、どのようなところに違いを感じられますか。
楡木 昨年12月まで、在日アイスランド商工会の会長を務めていました。アイスランド人が就任するのが一般的なのですが、日本の女性の地位向上のために、アイスランドの事例をメッセージとして届けたいという思いもあって、お引き受けしました。さきほどイギリスのアトランティック・スクールの25%がスカンジナビア人だったといいましたが、アイスランドだけでなく、フィンランドやノルウェー、スウェーデンやデンマークなど、スカンジナビアの国々のジェンダー・ギャップ指数のスコアは総じて高いレベルにあります。私自身、帰国したときに日本のジェンダー・ギャップの大きさに驚きました。男女雇用機会均等法は施行されていましたが、当時は雇用についても社内ポジションについても歴然とした差がありました。成果をあげたいと思っても、結婚していて子どもがいるとそのチャンスさえ与えられません。その点では、オズール社は公平に機会を与えてくれましたし、成果を上げれば評価してくれました。そのぶん成果についてはシビアな観点から評価されますけれど。
人事や評価体系の透明性が高いのですね。
楡木 はい、ガバナンスが効いています。NASDAQ上場企業には、女性の管理職の割合の開示義務がありますから、その緊張感もあります。アイスランドは警察官の汚職がもっとも少ない国ですが、正義を重視する国民性もあって、社内の不正にも厳しく対処します。経費を私的につかっていた場合にも、もみ消したり注意したりするだけではすみません。責任のあるポジションの人が、ある日突然いなくなったりする。その人がいたほうが企業の業績にとってプラスであっても、正義がそれを上書きするわけです。ですから、セクハラやパワハラはもってのほかという風土です。女性だけでなく、すべてにおいて正義のプライオリティが高いのです。
アイスランドは、国際婦人年の1975年に、男女格差や性的役割分担に抗議して、女性が労働も育児もボイコットした日があったのですよね。
楡木 そのエピソードは、同じ労働でも女性の賃金が40%も少なかったことに端を発しています。そこで、8時間労働の6割が終了したところで、アイスランド中の女性がピタッと仕事の手を止めたのです。その時間についての賃金を受け取っていませんから。学校の先生も授業を中止して、銀行の窓口もストップする。アンペイドワークも例外でなく、主婦は食事をつくるのも、子どもを迎えにいくのもやめて、みんなで街中に集合しました。そこからジェンダー・イクオリティが進んできたという経緯があります。その後も、男女の賃金格差が明らかになると10月24日に仕事をストップするストライキが行われています。2016年には、女性の賃金のほうが男性より3割少ないことが明らかになり、14時38分に仕事を切り上げたそうです。2018年には、世界ではじめて男女の賃金格差を違法とする法律ができました。デモンストレーションというと、なにかを声高に叫ぶようなイメージがありますが、この運動は給与の分は働いてそれ以外をボイコットするので、定量的で説得力のあるものになっていると思います。
現状のままで日本が男女平等を達成するには189年かかると試算されています。
楡木 いまの日本は明るい未来を想像できず、少子化を招いています。国にとって人口減少が危機的なことだとわかっていても、そこを乗り越えて未来を作ろうという気になれないというのは、サイレント・レボリューションです。社会全体で考えるべきことだと思います。
アイスランドも、欧州経済危機の影響を大きく受けたものの、そこからV字回復を遂げていますね。
楡木 2007年ぐらいのことでしたが、アイスランドの銀行が全部営業を停止してしまったので、当社のトランザクションも3カ月間ストップしてしまいました。当時のレポートには、男性的な経営が続いてきたことも原因だと記されていました。とくに喫煙所や就業後の飲み会などのボーイズ・クラブで物ごとが決定されてきた経緯が問題視されました。その反省として、多様性の重視が求められたのです。物ごとを決めるときに、同質の集団だけでは歯止めが効かないこともありますから。
料亭での会食で重要事項が決まってしまう日本の政治状況を考えると……。
楡木 アイスランドでは女性政治家も多いですし、現在の首相も女性です。
アイスランドでは、世界ではじめて直接選挙で選ばれた女性大統領も輩出してますね。
楡木 そうなんです。1980年に女性が大統領になったときに、ファンダメンタルと人権尊重について熱心に取り組みました。そういう意味では、学びの多い国です。ジェンダー・イクオリティもそこに起因する少子化も、時期を逸してしまったら下がりつづけるしかありません。189年もかかったら、その頃には子どもがいなくなってしまいます。
